第95話 買い物①

 基本的に、この学園は学食をタダで提供している。

 というか学費の中に毎日の食事代も含まれているのだ。

 何せ貴族がお金のやり取りをするのは不毛だからだ。

 中には、支払いをすべて侍従任せで、自分は財布を持ったことすらない学生だって中にいる。


 フィーアだってそうだ、王城から学園に通うまでの間、彼女がお金を使う機会なんてない。

 もっと言えば、俺だって学園に来る際、ほとんど金は持ってきていない。

 使い所がないからな。


 そんな学園で、唯一お金を使って売り買いをする場所が、この購買だ。

 購買は、主にに用意されている。

 教師は学食で食事を取ることが出来ない。

 教師の中には平民もいる。

 そういう人が食事を用意したりするための場所だ。

 そういう人にとって食事は買って手に入れるものだからな。


 もちろん、学生も利用することはある。

 うっかり筆記用具やノートを忘れてしまった時、購買を利用するのだ。

 まぁ学生の場合は代金は実家に請求されることになるのだが。


 何にせよ、安全に買い物ができて、この時間でもやっている。

 まさにフィーアが初めて買い物をするのにうってつけの場所と言えるだろう。


「た、たのもー」

「いや、変な挨拶はいらないぞ?」

「私の覚悟の挨拶を変って言った!?」


 なんて、やり取りをしつつ中に入る。

 中にはレジに店員が一人いて、本を読みながら時間を潰していた。

 まぁ、基本的に閑古鳥がないてるような場所だろうしな。

 視線をこちらに向けて、客が学生だと見てとって慌てて本を閉まって接客に移る。


「いらっしゃいませー」


 まぁ、それはそれとして気が抜けていたが。


「なにかお、なにかお」

「まぁ……夕食だろ」

「お腹すいたもんねぇ」


 店員の女性が、カップルだと思われる俺達に剣呑な視線を送っている。

 俺でなければ見逃してしまうが、それはそれとして貴族相手にそのふるまいはどうかと思うぞ。

 俺は違うけど。


「いっぱいあるねー」

「保存魔術が聞いてるな、どれも新鮮なままだ」


 食事を作った状態で鮮度を落とさずに保管できる保存魔術。

 もしもなければこんな採算の取れなさそうな購買、運営できないよなと思ったりするが。

 コレのお陰で、教師は毎日おいしい食事を取れるんだから悪いことはない。


「め、目移りしちゃう! あれもこれも欲しいよ」

「フィーアはいっぱい食べるからな、でもお金には限りがあるわけだから、吟味しないとダメだぞ」

「人を食いしん坊みたいに言うなー! うー……少し考える!」


 いやまぁ、食いしん坊だと思うんだが。

 これ以上指摘するとフィーアの考えがまとまらなくなるので、黙っておいた。

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