第93話 お手伝い④
「私の本棚にね、これと同じ癖の本が何冊かあるの」
「それってまさか……」
「うん、ハイムくんの複製した本だと思う」
そりゃまた、とんでもない偶然もあったものだ。
いや、そんな偶然あるのか?
「その本は、娯楽小説だったり魔術の本だったりするんだけど、どれも読んでるとすっごく安心できるんだ。そっか……ハイムくんの本だったんだ」
「俺が書いたわけじゃないけどな。でもまぁ確かに、本は筆跡も一つの読み物だ。複製も含めて、自分に合った本はあるものかもな」
ともあれ、フィーアが嬉しそうにしているのは悪いことではない。
見ているこっちも嬉しくなるし、単純にフィーアの効率も更に上がった。
というか、何ならもはや俺よりも効率がいいんじゃないか?
基本、一度に一つのことしかできない俺は、会話をしながらの作業が苦手だ。
代わりに、一人で一つのことに集中すれば作業効率は一気に上る。
といっても、筆記魔術による複製は、複製に多少時間を取られるため、どれだけ集中しても効率化できる作業に限りがある。
結果として、二人片付けたほうが間違いなく早く終わるわけだが。
「うおおおおおお! うおおおおおおおおお!」
「ふぃ、フィーアが燃えている……」
隣で凄まじい速度で作業を進めていくフィーアを見て、気圧されてしまう気持ちもあった。
いやぁ、気合い入りすぎである。
それにしても、フィーアは一体どこで俺の複製した本を手に入れたのだろう。
俺が本の複製を始めたのは、学園に入学してバイトを初めてからだ。
その短い期間で俺の本を見つけ、フィーアはそれを好み始めたのだろうか。
いや、幾らなんでもそれはないだろう。
何かしらキッカケがなければ、そういう偶然は起きないはずで。
だとしたら、一体何がキッカケになったか……そもそも、俺が本の複製をしたタイミングといえば、バイトの他に……
なんて考えているうちに。
「できたー!」
「いやぁ、思った以上にあっさり終わったな」
あっさり、複写は終わってしまった。
本当にあっさりと、俺が想定していた以上のスピードだ。
「そ、そそそ、それでねそれでね、ハイムくんハイムくん」
「急にそわそわして、どうした」
「もう一冊作って欲しいの! 私が持ち帰る分!」
なんというか、怪しい笑みをフィーアは浮かべている。
これはまずい、とてもまずいやつだ。
だが、拒否するわけには行かない。
俺はフィーアの恋人なのだから。
「ええと……俺の手持ちの本でもいいか?」
「うん!!!!!」
幸せそうなフィーアを、それはそれで可愛いとは思うものの。
なんというか、開いちゃいけない扉を開いてないか? とも思ってしまうのだった。
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