第92話 お手伝い③

「うーん、複製のはずなのに微妙になんか違う……」

「そんなもんだよ。筆記魔術は、術者のイメージを介して文字を別の紙に転写するんだ。だから、イメージのズレが若干転写先に現れる」


 こればっかりは、どれだけ練習してもそうそう治るものではない。

 中には、ほぼ正確に内容を転写してしまう凄腕もいるが。

 さすがに、一発目でそれが出来てしまうほどフィーアは天才ではないだろう。


「慣れればそのうち感覚が掴めてくる。そうすれば、ある程度納得がいく形に落ち着くさ」

「そんなものかなぁ。うーん、とりあえずやってみよう!」


 というわけで、二人がかりで作業に入る。

 さすがにフィーアは見事なもので、その手際は普段から複製をしているはずの俺に負けず劣らないほどだ。

 まぁ、俺がフィーアは大丈夫かと気にしていたり、真面目な顔をしたフィーアに見惚れていたりするのも、大いに理由の一つではあるが。


「転写の癖って、案外見る人が見れば解るらしいんだよ」

「そうなの? 筆跡みたいな感じかな」

「そんな感じだ。で、世の中にはそういう転写の癖を芸術みたいに崇める好事家もいるらしい」


 有名な魔術師の作った複製というのは、たまにやたら高値で取引されることがある。

 具体的に言うと、フィオルディア陛下の作った複製とかな。

 ただあの方はどうも自由自在に自分の癖を変えられるみたいで、陛下の複製という確証のある複製は少ない。

 案外、この研究室の資料の中にも埋もれていたりするかもな。


「ハイムくんは、そういう転写の癖って好きだったりする?」

「いいや、俺は資料が読めればなんでもいいからな、意識したこともない」

「ふぅーん、ちょっと意外かも」


 フィーアは、俺が魔術なら何でもいいと思ってないか?

 言っておくけど、俺はどちらかと言うと効率重視の魔術師だぞ?

 とか言ってるうちに、フィーアが複製を一つ終えた。


「できたー! どうかな、どうかな?」

「どれどれ……よし、いい感じだな」


 見た感じ、何も問題はない。

 さすがはフィーア、何の心配も要らなかったな。


「ハイムくんのも見せてよ!」

「いや、いいけど……特に面白いものないぞ?」


 言いながら、フィーアは俺の複製を覗き込んで――


「――――」


 停止した。

 なにか、衝撃を覚えたかのようだ。


「私、コレ知ってる」

「……えっと、何を?」

「この転写の癖、知ってる」


 ……?

 一瞬、何のことか理解できなかった。

 だが、すぐにフィーアが目を輝かせて俺の手を取ったことで、否が応でも理解させられる。


「私! ハイムくんの癖、好き!」


 それは理解ったんだけど、もう少し言い方とかなかったんですかね?

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