第91話 お手伝い②
「筆記魔術による複製って、ハイムくんがいつもやってる?」
「そうだ、週に一回、複製を専門にやってる工房でな」
筆記魔術による複製。
まず、筆記魔術というのは魔術によって本の内容を別の本に書き写すことだ。
この魔術を使うと、本に書かれた内容を一言一句正確に、別の本へ書き写すことができる。
これがあるとないとでは、この世界に流通する本の量と貴重さは段違いになる。
俺にしてみれば、あらゆる魔術の中で最も優先度の高い魔術といっても過言ではない。
「フィーアは、筆記魔術による複製ってやったことあるか?」
「うん、昔習ったよ? ハイムくんが教えてくれれば、すぐにできるようになると思う」
「さすが、優秀だな」
フィーアは要領がいい。
そんなフィーアができると言ったのだ、実際に少し練習すればできるようになるだろう。
「じゃあ、早速一冊やってみるか」
「おー」
教授の資料は、それはもう大量にある。
これをすべて一人でやるとなると、慣れた俺でも一日仕事だ。
今日は放課後までフィーアの時間が空いているとはいえ、あまり遅くまでフィーアに作業はさせたくない。
王女様が夜遅くまで王城の外にいるって、単純に不安なんだよ。
「まず、複製したい本、もしくは資料と白紙の紙を用意する」
紙というのは、万能の資材だ。
こうして論文を作成したり、授業でノートを取るために使うだけではない。
梱包にも使うし、ときには火種としても有用だ。
そんな紙も、やはり魔術によって量産されている。
筆記魔術と、紙片魔術。
この二つの魔術がなければ、人類の文明は数百年遅れていただろうとすら言われるくらい偉大な魔術だ。
「筆よ、紙を奔れ」
論文と白紙、二つの紙に手を置きながら詠唱。
すると論文が光を帯び、次に白紙も光る。
やがて、白紙の紙に論文と同じ内容の文字が浮かび上がった。
二枚の紙を見比べて、大きく変化がなければ紙をめくって次の筆記を行う。
一枚の筆記を終えるのに、だいたい数十秒ってところか。
今はフィーアに見せる意味もあって慎重にやっているのでそれだけかかるが、効率的にやれば、数百ページある本を一冊複製するのに係る時間は三十分程度だ。
論文はもっとページ数が少ないので、数分もあれば完了する。
「というわけで、こんな感じだな」
「おー、プロみたいだぁ」
「まぁ、週イチでこれを飯の種にしてるからな」
あと、普段から気になる本や資料は定期的に複製している。
慣れたものと言えば、そのとおりだ。
「じゃあ、私もやってみるね」
「わからないことがあれば、何でも聞いてくれ」
とはいったものの――
「できた!」
「めちゃくちゃ手際いいな?」
さすがフィーア、器用にサクッと成功させてしまった。
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