第90話 お手伝い①

 バイト、労働の対価にお金を得る行為は、学園内では一般的ではない。

 単純に貴族がバイトをする必要がないからだ。

 他にも、バイトということは雇い主が必要になる。

 学生を雇う存在が、学園内には教師しかいない。

 教師の中には、雇う相手が自分よりも身分の高い相手であることもある。

 そうなると、雇われる側のプライドとか立場が問題になったりするのだ。


 だから原則、学園内でバイトは行われない。

 あくまで教師の頼みを、学生が善意で請け負うという形でのみ両者のやり取りは発生する。

 フィーアが普段からやっている雑用なんて、まさにその典型だ。


 だから、まさかストラ教授がバイトを頼んでくるとは思わなかった。

 そしてフィーアが、それに食いつくことも。


「だってバイト! バイトだよハイムくん!」

「お、おう」

「お姫様が普通やれないこと第三位!」


 二位と一位は何なんだ。

 いやまぁ、色々想像はつくけど。

 逆に想像できすぎてどれが上位でどれが下位かも解らん。


「しかし、なんだって教授もわざわざバイトって形で頼んできたのか、普通に雑用として頼めばいいんじゃないか?」

「多分、本当に私的なことなんじゃないかな。あくまで教師が学生に頼める雑用って、学園に関わることだし」


 確かにそれなら、わざわざ依頼することも理解らなくはない。

 ストラ教授は普段忙しいみたいだからな。

 講義も月に一回しかないし。

 その割には、学園内で見かけることは殆どないのだけど。

 何してるんだろうな、あの人。


「ついたー、相変わらず教授の研究室は奥まってるね」

「たまにここへ雑用をしに来るんだが、来るたびに階段が多くて困る」


 んで、俺達は今、教授の研究室へやってきている。

 お姫様どうこうの話をしているのも、この辺りを通る学生が皆無だからだ。

 本当に、教授の研究室は学園の奥深くにある。


「失礼しまーす」


 勢いよくフィーアが戸を叩いて中に入った。

 返事はなかったが、もともと教授は研究室にいないと聞いてあるので問題ない。

 基本的に、俺が掃除をしないと乱雑にいろいろなものが積み重なったままになっているストラ教授の研究室。

 今日もひときわ乱雑に積み上げられた資料の山。


 その中に、ひときわ目立つよう区画をわけて積み上げられた資料が置いてあった。

 内容は――


「教授の論文だな。すごい、未発表のものもある」

「未発表か解るって……全部読んでるの?」

「当然だ。んで、バイトは――」


 少し視線を巡らせ、教授のメモを見つけて読む。

 内容は――


「――なるほど、筆記魔術による複製か」


 ちょうど、俺が普段からやっているバイトと、内容は同じだった。

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