4.バイト

第89話 それから

 魔導王国マギパステル、大陸一の魔術国家として知られ、多くの魔術師が国を支えている。

 そういった優秀な魔術師を排出する専門の育成機関。

 魔導学園パレットは、魔術師ならば誰でも憧れる学び舎だ。

 とはいえ、基本的には貴族の学び舎であるそこは、普通の人間にとってはあまりにも敷居が高い。

 そんな魔導学園に、特待生として平民でありながら通っているのが俺、ハイム。

 正直あまり実感はないが、結構周囲からは期待される立場だ。


 んで、そんな俺には恥ずかしながら彼女がいる。

 フィーア・カラット。

 誰にでも優しい……まぁ、最近は色々あって優しくする相手が中々いないんだが……平民である俺にも優しくしてくれた少女。

 茶髪の見た目は少し地味な彼女だが、そんなフィーアには秘密がある。

 その正体はこの国で最も人気のある王女、神の至宝とまで謳われる第三王女ステラフィア・マギパステル。


 色々あって俺はその秘密を知ってしまい、これまた幾つかの事件を経て、付き合うことになったわけだが――

 今日は、ある意味でそのキッカケでもあった『考古魔導学』の講義を俺達は受けている。

 その講義は、俺とフィーアの二人しか受けていない。

 月に一度しかないということもあって、何とも新鮮な感じだ。

 加えて言えば、アレからもう一月が経ったということでもある。


 気がつけば一月、もしくは、まだ一月しか経っていない。

 個人的には前者なんだが、フィーアはきっと後者だと言うんだろうな。

 で、話しはそんな考古魔導学の講義がところから始まる。


「まさか、私の講義を受けているたった二人の学生が、こうして付き合うことになるとはの」

「し、知ってたんですか? 先生」

「さすがに、アレだけ噂になっとればの」


 考古魔導学の教師、ストラ教授は、そう言ってどこかからかうように笑った。

 今は大分沈静化したものの、あの決闘からしばらく、俺とフィーアの話題は学園を席巻していた。

 俺とフィーアの容姿が貴族基準で地味だったこともあって、現実の俺達にはそこまで影響もなかったが。

 今でも、もしどこぞで名前を出せば俺達は一躍時の人になってしまうだろう。


「ま、健全な付き合いをする分には、学園は何も言わん。結局、色恋は本人と家の問題だからの」


 そこで、本人だけの問題ではなく、家も絡んでくるのはさすが貴族。

 とはいえ、そこら辺俺達は色々と事情があるわけだが――


「さて、そんなカップル二人に、一つ頼みたいことがあるのだ」

「頼みたいこと?」

「そうだ。一つ――小遣い稼ぎをしてみる気はないかの?」


 それって、つまり……


「バ、バイトってやつですか!?」


 バイト。

 ――その事実にフィーアが、目を輝かせた。

 物語は、そこから始まる。

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