第87話 俺と彼女①

 ステラフィア王女は、フィーアの微笑みで俺に語りかける。


「うーん、ハイムくんを驚かせたかったんだけどなあ」

「いや、驚いたよ。自分のいる場所を間違えたんじゃないかと」

「もうちょっと、見てたかったなって」


 そうやって、こっちを揶揄おうという魂胆だ。

 わかっていても、こっちを揶揄うフィーアもまた愛らしく思えてくるのは、少し俺がのぼせているのかもしれない。


「でも、一瞬空気に呑まれたってことは、私の王女様っぽさを感じてくれたんだ」

「そりゃあな。ってか、ぽさじゃないだろ、ぽさじゃ」

「そうでした」


 てへへ、と頭を掻く王女。

 フィーアは、そのまま俺を手招きする。

 すでに、昼食はテーブルの上に広げられていた。


「ふふふ、おいでませー」

「お邪魔します」

「お邪魔とはなんだー、他人行儀な!」

「いや、そう言う流れだっただろ?」


 なんて話をしつつ席につく。

 今日も茶色を白で包んだ感じのサンドが多めだ。

 教わった相手もそうだろうけど、個人の趣味だろうな。

 割と食いしん坊なフィーアである。


「んー、美味しい」

「王女が、こういう庶民的な食べ物を食べてると、新鮮だな……」

「なんだとー、と言いたいところだけど、実際私もこの姿でカツサンドは新鮮だよー」


 普段は、もう少しいいものを食べているらしい。

 いや、当たり前だろと言う話だが、貴族が多く通う学園の学食が割と庶民的なので、正直あまり想像がつかない。

 実際、普段何を食べてるんだろうな。


「どうかな、お忍びの王女様っぽい?」

「どうだろうなあ、フィーアの姿に慣れすぎてて、お忍びしてる時もフィーアだろうって刷り込みがある」

「そう言われるとそうかもー」


 パクパクと、サンドを食べてく王女様。

 どちらかと言うとその姿は、王女が宮殿でこっそり庶民的なものを食べている感じが近い。

 ステラフィア王女には、この資料室を王城に変えてしまう雰囲気がある。

 なんてことを、フィーアに伝えてみた。


「それなら、ハイムくんは私に悪いことを教える執事さんかも」

「どっちにしても、禁断の恋だな」

「禁断の恋かぁ、普通に告白されちゃったし、お父様にもお許しがもらえたから実感がわかないけど、やっぱり私たちの恋愛って、障害は多いよね」

「これまでは、グオリエのことで手一杯だったしな」


 グオリエのことが片付いたものの。

 問題は、むしろ今後のことの方が多いかもしれない。

 直接排除できるグオリエは、問題の難易度としては低い可能性もあるのだ。

 それでも、俺は……


「その程度で、フィーアとのことを諦めるつもりはないよ」


 そう、言い切れるのだ。

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