第82話 決着①

 決闘の開始と、今では、周囲の空気は全く違う。

 最初俺がこの事を指摘しても、グオリエが一蹴してしまえば疑うものはいても信じるものはいなかっただろう。


 だが、今は違う。

 俺が完全に勝利を決定づけ、グオリエが醜態をさらし、両者の立場が会話と決闘の中から周囲に概ね理解された今ならば。


 俺とグオリエ。

 どちらの言葉を信じるかは、火を見るよりも明らかだった。

 そのうえで、グオリエは認めた。

 気が動転したまま、喋っていいことと悪いこと、今自分がどこにいるのかの区別もつかず。

 うっかりと口をすべらせた。


 だから、状況は周囲の認識以上に決定的だ。

 周囲がにわかに騒ぎ出す。

 その反応は、一言で言えば疑惑と侮蔑だ。


 視線は、すべてグオリエに向けられていた。


「そこまで! 皆も静粛に! 静粛にするんだ!」


 それを、立会人の教師が押し止める。

 決闘も、間に彼が割って入ったことで中断された。


「グオリエ、ハイムの言っていたことは本当か?」

「え、あ……」


 そこで、グオリエは今自分が何をしたか理解したようだ。

 ……理解するまでに、そこまでかかっていたのか?

 動揺は、それだけ酷かったと見える。


「ち、違う! 奴の口からのでまかせだ!」

「先日、夜に図書館の前でやつと出くわし、そこで決闘を俺から挑まなければ図書館に火をつけると言われたのです」


 経緯を改めて説明する。

 あの夜、俺がヤツから向けられた言葉を、ある程度要約しながら。

 その話で、一番に反応があったのは意外にもグオリエでも、教師でも、見物人でもなかった。

 彼らは、図書館に火をつけたという事実に驚いている。


 一番に反応したのは――


「……ハイム、だとすると少し君らしくないな。どうして決闘の要求を呑んだんだ?  グオリエが図書館を燃やすより早く、君ならグオリエを制圧できただろう」

「あーえっと、その場合でもグオリエが騒げば問題になるかと」

「それなら、私は当然君を擁護する。最終的に、悪いようにはならないだろう」

「……そう、ですね」


 教師の追求を、残念ながら躱せなくなってしまった。

 正直、これは口にするのが少し気恥ずかしいのだが。


「グオリエに、フィーアのことを愚弄されまして。……それを許せなかったんです」

「んにゃあ!?」


 一番に反応したのは、フィーアだった。

 いや、しょうがないだろ。

 ここまで来たら説明しないわけにはいかないんだから。

 フィーアだってそれは理解っていただろうが、我慢できなかったのかそれはもう見事なくらい真っ赤になっていた。


 というか、叫び声を上げてしまったせいで、視線が一斉にフィーアへ向いてしまった。


「…………悪い」

「いえ……」


 気まずい沈黙の中、教師の謝罪が胸にしみた。

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