第81話 決闘⑩

 俺の勝利宣言に、グオリエは――


「や、やめろ! 貴様、今何をしているのか理解っているのか!?」

「……?」


 正直、俺はグオリエが何を言っているのか理解らなかった。

 まさか、何かしら反撃の手があるのか?

 本気でそう考えてしまったのだ。


「貴様の眼の前にいるのは、上級貴族グオリエ・バファルスキだぞ!? それに決闘で勝利したとして、貴様に明日があるとでも思うのか!?」

「な……」


 こいつ、まさか……


の貴様が、上級貴族の俺に逆らうなど!!」


 命乞いをしているのか!?

 この期に及んで!?

 俺を立場で脅迫し、この決闘を降りろと言っているのか!?


 そんな困惑に、俺が思考を一瞬停止している間に。

 にわかに騒がしくなったのは、見物人の方だ。


「平民!? あの学生は平民なのか!?」

「マジかよ、確かに貴族にしては地味だと思ったが」


 地味で悪かったな。

 どうやら、見物人は俺が平民だと知らなかったらしい。

 まぁそうだろう、ここまで俺もグオリエも、教師だって俺の立場を口にしたことはなかったんだから。


「――ちょっと待てよ、平民ってことは……特待生だよな?」

「特待生……ってあの? じゃあ彼が……あのハイムなのか!? 入試を満点で突破したという」

「フィオルディア陛下以来の天才魔術師……!」


 その反応は、少し意外だった。

 まさか平民というところから、特待生という立場……そして俺の名前にまで行き着くなんて。

 俺の見た目はともかく、名前と立場はそれなりに知名度があったようだ。

 今まで、俺の置かれた環境でそれを知るすべがなかっただけで。


 そして、それに反応したのはグオリエだった。


「…………っ! 黙れ黙れ黙れ! 誰も彼もがこの平民の話をするなぁ! 俺は上級貴族だぞ! バファルスキ家の子息だぞ!?」


 グオリエは、本当に。

 どうしようもないくらい、俺という存在が気に食わないらしい。


「だが、決闘はお前の負けだグオリエ」


 俺は、グオリエの言葉を遮る意味を兼ねて、グオリエの横に火炎魔術を飛ばした。

 通り過ぎていく火の玉に、グオリエの表情がこわばる。


「っ! や、やめろ! やめろ平民! それ以上俺を攻撃してみろ、どうなるか!」

「なら答えろ!」

「っ!」


 恫喝するように、言葉を遮り叫ぶ。

 今のグオリエは動揺している。

 顔は恐怖に引きつり、なにかから逃げようとしているようだ。

 そんな状況で、一喝すれば。

 グオリエは完全に黙ってしまう。

 だからこそ、俺はこの状況で奴が最初にしようとしていた事の意趣返しをする。



「どうして、まで、俺に決闘を挑ませるよう強要した!?」



 その瞬間。

 周囲の空気が、燃え盛る火の海から、氷結魔術で氷着いたかのように。

 一瞬で、凍りついた。

 グオリエは、そのことに気が付かない。


「アレは! アレは貴様が悪いのだ! 貴様さえ、貴様さえいなければ! 俺はこんなことにはならなかった!!」


 だからこそ、自白と取れる言葉を。

 動揺のまま口にするのだ。

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