第80話 決闘⑨

 極論、移動禁止の魔術戦は相手を動かしてしまえば勝ちだ。

 今グオリエがやったように、相手の足元を壊せば、相手は動いてしまう。

 もちろん、事前の仕掛けはルール違反だ。

 だが、事前に仕掛けたのか、今まさに足元を壊す魔術を使ったのかは判別がつきにくい。

 どちらにせよ、移動禁止の魔術戦において、足元の破壊は禁じ手にして必勝の手だ。


 そのうえで、足元の破壊が禁じ手である最大の理由は、面子だ。

 そんな手段を使ってまで勝った奴を、果たして誰が認めるだろう。

 貴族としても、魔術師としても、人間としても。

 だから普通は使わない。


 グオリエの場合は、どうだろう。

 単純に奴がそこまでバカだったのか。

 それとも、考えあってのことか。


 こう考えることはできる。

 奴はここまで、周囲の見物人を敵に回す言動ばかりしてきた。

 だから、多少禁じ手を使った程度で評価は変わらない。

 そのうえで、俺達がこの決闘で白黒つけるのは、色恋の話だ。

 そうまでして勝ちたいくらい本気であると周りが思えば、ただ禁じ手を使うよりも印象はマシになるだろう。

 まぁ、本当にマシにはなるというくらいだが。


 なんて。

 色々理屈をつけてみたものの――


 俺の足元を崩し、勝ちを確信した笑みを浮かべるグオリエに、そんな考えがあるは、残念ながら到底思えなかった。



 そして、その確信の笑みが、どんどん驚愕に染まっていく。



「な、な――」

「グオリエ、お前が移動禁止の魔術戦を仕掛けてきた時点で、この手を使うっていうのは正直確信してたんだよ」


 だから、俺は対策を打った。

 それは、


「なぜ、貴様は宙に浮いている!?」


 空中に浮遊することだった。

 もちろん、俺は一歩も動いていない。

 足場を崩されても、微動だにすること無く空中にとどまったのだ。

 ちらりと教師を見るが、当然俺に負けの判定を下すことはない。

 事前に確認しておいたからな。


「風塵魔術の応用だよ。あれは風を自由に操る魔術だが、風を固定して足場にすることもできる」

「そんな応用、聞いたこともない!」

「そうだろうな、中級魔術の上級化が必要な技術だ。学園ですら、これを授業で扱うかは解らん」


 その言葉に、グオリエの顔が驚愕に染まる。


「ちゅ、中級……!? 貴様が使えるのは、下級魔術の上級化だろう!」

「皆の前で使ってみせたのが、それだっただけだ。そもそも、俺が机を治したのも中級魔術の上級化による技術だ。……見て理解らなかったのか?」

「な、あ、き、貴様ああああああ!」


 俺は、杖を突きつけて炎を生み出す。


「さぁ、これでお前の手は全部捌いたぞ。もしもこれ以外に反撃の手があるのなら。存分に披露してみろよ」


 そうでなければ、お前の詰みだグオリエ。

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