第79話 決闘⑧
「クソクソクソ! なぜだ、なぜ答えない! 俺の命が聞けないのか!?」
――グオリエの叫びが、静まり返った決闘の場に響く。
気がつけば、周囲の見物人たちの、グオリエを見る目は冷たいものになっていた。
なにせ、口を開いて開口一番。
俺を愚弄し、周囲の印象を悪化させたのだ。
そこから更に、奴は愚行に愚行を重ね、見物人たちの評価をその都度下げていった。
そして最後。
グオリエは詰んだ。
周囲にマナのない魔術師は、もはや魔術師とは言えない。
魔術師の戦いにおいて、もっとも基本とされることは、マナを尽きさせないこと。
それを怠った時点で、感情的にも、道理の上でも、見物人達がグオリエを味方することはない。
「ふざけるな! 俺はグオリエ・バファルスキだぞ!? 上級貴族バファルスキ家の人間だぞ!? それを……こんな! バカにしているのか!?」
そして、周囲に当たり散らすことで、その評価は更に下がっていく。
もはやこの場に、彼の味方はいないだろう。
だが、
「……いや、まだだ」
グオリエは、それでもまだ諦めていない。
「たとえ俺がマナを枯渇させたとして、俺には魔導防護コートがある。そのまもりを突破しなければ、いずれマナはこの場に戻る。そのまま俺は、貴様を縊り殺してやるのだ……!」
「グオリエ……」
あまりにも、醜い宣誓だった。
確かにやつの言っていることは間違っていない。
奴は、俺の使える魔術をすべて封殺するつもりで、あのコートを用意しているだろう。
そのうえで、それを口に出してしまう品性は疑わしいと見物人達が思っているだけで。
「悪いが、そもそもお前が魔導防護コートを持ち込むことは読めてたんだよ」
「何……?」
というよりも、移動禁止の魔術戦を持ちかける以上、上級貴族ならもちろんそれを用意するだろうと俺は思っていた。
だから、それに対する準備も当然してきたわけだ。
「魔導防護コートの原理は、基本的に魔術だ。どれだけ高度だろうと、限界はある。故に――」
やることは、先程と何一つ変わらない。
「――魔よ、切り拓け」
霧散魔術だ。
それも、先ほどのあものとは少し違う。
この霧散魔術は、上級魔術だ。
制御の難易度は、段違いである。
「やめろ!!」
危険を感じ取ったか、グオリエは静止する。
だが、もう遅い。
放たれた魔術は、一気に魔導防護コートに使われていたマナを一掃する。
「な、あ、クソ――――!」
もはや、グオリエに俺を止める手段はない。
たとえあったとしても、俺はその全てに対応するだろう。
故に。
「これで終わりだ、グオリエ」
「……っ!!」
俺の勝利宣言に、グオリエは一瞬だけ意識を外界に向ける。
そして、
「…………終わるのは、貴様だ!!」
直後。
杖を構えたグオリエが叫ぶと同時。
俺の足元が、すっぽりと消えてなくなった。
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