第78話 決闘⑦
下級魔術の上級化は、未だその原理が解明されていない。
だが、有力な仮説がないわけではないのだ。
曰く、魔術とはマナを込めた風船のようなものだという。
風船の中には、魔術を発動するためのマナが詰め込まれており、マナが規定量を上回ると、風船が破裂してしまう。
そうすると、魔術は発動せずマナも霧散する。
魔術の制御とは、風船を割らずにマナを中に詰め込む技術と言える。
そこで、下級魔術の風船を作り、上級魔術を中に詰め込むと不思議なことに、入ってしまうのだ。
上級魔術が。
風船の大きさは下級魔術と同じだから、消費するマナも同じ。
なのに威力や効果が段違いにアップする。
不思議なことがあったものだ。
なお、仮説というのはそれではない。
これと似たような現象を、別の魔術で起こすことができるのだ。
それこそ、マナの霧散。
霧散魔術と呼ばれるそれは、魔術で作られた風船の中に、適切に加工したマナを送り込むことで、風船の中でマナとマナを対消滅するように霧散させる魔術だ。
これの要点は、魔術はマナを加工することで行使されるわけだが、特定の加工したマナに別の特定の加工jしたマナをぶつけると、それらが反発しあって消えてしまうということ。
同じことが、下級魔術の上級化で行われているのではないか、という仮説だ。
長々と話たが、先程俺がやってみせたのは、その霧散魔術という魔術。
収奪の杖で強化した魔術は、結局のところマナを余計に浪費し威力を上げただけの同じ魔術に過ぎない。
霧散魔術が使えれば、打ち消すことは容易だ。
「――ふざけるな、そんなことがあってたまるか! この威力、貴様の操る下級魔術の上級化よりも更に高い威力を誇るのだぞ!?」
グオリエが怒りを顕にする。
奴は俺の使う魔術よりも、威力の高い魔術を用意することで、魔術同士のぶつけ合いで絶対に勝利するつもりだった。
それが崩れたのだから、狼狽えるなというのも無理な話。
だが、一つ勘違いしているが、俺が使える魔術の限界は下級魔術の上級化ではないぞ。
中級魔術の上級化だ。
そして中級魔術を上級化した際の威力は、先程の収奪の杖を用いた上級火炎魔術の威力を上回る。
まぁ、だからこそ威力が高すぎて決闘では使えないわけだが。
「……だが、そんなふざけたマネをそう何度もできるものか!」
そう言って、グオリエは杖を掲げた。
珍しく、グオリエは冴えている。
霧散魔術は、そう何度も使えるものではない。
魔術の中でも特に制御が難しいからだ。
だから、上級火炎魔術を無数に連打されたら、俺は少し困る。
だが。
「――業火よ、逆巻け!」
その詠唱に、反応するマナはない。
先程の上級火炎魔術を放つために、収奪の杖がマナを吸い集めた結果――グオリエの周囲に漂っていたマナが枯渇したのである。
いわゆるそれは、詰みというやつだった。
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