第77話 決闘⑥
下級でありながら上級以上の火力を持つ魔術。
原因はあの杖だ。
周囲のマナを強引に必要以上取り込み、威力を強化している。
収奪の杖と一般に呼ばれるそれは、魔術師によっては忌み嫌う者も入る。
マナは自然の恵みだ、それを必要以上に浪費する行為を嫌うというのは間違った心情ではないだろう。
とはいえ、実際にはマナというのは無限に湧いて出るもので、消費することでマナはその役割を全うするわけだが。
その話は長くなるので、今はやめておこう。
とにかく、こういう決闘の場で持ち出すことを厭う者もいるという話。
「魔導防護コートは解るけど、収奪の杖はやりすぎだろ!」
「そこまでして勝ちたいのかよ、相手は自分より格下の相手だぞ?」
そんな見物人達の声は、しかし迫りくる業火によってかき消される。
やりすぎ、というのは一般的な見方だが。
それでもルールからは逸脱していない。
勝ったものが偉い、決闘の大前提はグオリエを味方している。
――そして、火炎は俺に着弾した。
「ハイムくん!」
フィーアが叫ぶ、見物人の視線が一斉にフィーアへ向かうわけだが。
心配がそれを上回れば、フィーアは俺の名を呼ぶだろう。
ともあれ、
「問題ない、フィーア」
やりすぎという見物人の声も。
フィーアの心配も。
勝ちを確信したグオリエも。
俺が無事なら、仔細ないことだ。
「な――なぜまだ立っている!」
「わからないなら、もう一度魔術を使えばいい」
「く……! 業火よ、逆巻け!」
グオリエの絶叫めいた詠唱の後、それは出現した。
白熱した、光のような炎の塊。
その場にいる誰もが目を見張るような、死の炎。
「上級火炎魔術を収奪の杖で!? 学園を更地にするつもりかよ!」
「っていうか、いくら防御結界が張ってあっても、無事でいられるのか!?」
がやがやと、騒がしくなる見物人。
これを見ている自分たちすら無事でいられるのかどうか、彼らは不安になっている。
「先生、あれは流石にまずいんじゃないですか!?」
「あ、ああ! やめろグオリエ、それ以上は危険すぎる!」
フィーアと立会人の教師も、グオリエの蛮行を止めようとしている。
学園を更地にするという見物人の言葉は、間違いではないのだ。
だが、
「うるさい、黙れ! もう遅い、もう遅いのだ、何もかも!」
グオリエは、狂気に満ちた顔で叫んだ。
「もはやこの魔術は俺の制御を離れた。誰にも止めることはできん!」
その言葉に、俺に向かって動き出す炎に。
「に、逃げろ――!」
見物人は恐慌状態に陥る。
しかし。
「――問題ない」
俺は、あくまでそれを正面から見据え、そう言って。
杖を構えた。
「は、ハイムくん……?」
「大丈夫だ、フィーア。でも、守りやすいから叶うことなら俺の後ろにいてほしい」
安心させるように、そう言って。
俺は、ある魔術を放つ。
「魔よ、静まれ」
それは、迫りくる白い光を。
まるで、最初からなかったかのように消し飛ばした。
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