第76話 決闘⑤

 すでに何度も言った通り、移動禁止の魔術戦は事前準備が物を言う。

 なにせ移動ができず、ただ魔術を打ち合うだけだ。

 魔術の発動速度と、威力がすべての戦闘方法である。

 そしてそれは、事前の準備で容易に優劣が変わる程度の差にしかならない。


 例えば――


「業火よ、逆巻け!」


 俺が上級火炎魔術を行使する。

 まずは小手調べ、という意味もあるが……グオリエの”準備”を確かめるためでもある。

 対するグオリエは、何もしなかった。

 俺が飛ばした攻撃魔術を――生身で受ける。


「いくら決闘とはいえ、上級攻撃魔術を生身で受けた!?」


 見物人が、驚きに叫ぶ。

 決闘は、とある特殊な結界の中で行われる。

 その結界の中では、どれだけ致命的な傷を受ける攻撃であっても、死なない程度の衝撃に変換される特性がある。


 これにより、決闘の最中はどんな魔術を使っても相手を殺すことはないのだが。

 上級攻撃魔術は、一撃で人を容易に消し炭にできる。

 それを死なないと理解っていても、正面から受けれる人間はそういないだろう。

 たとえ――


「ふん、この程度か?」


 ――その攻撃が、自分に当たることはないと理解っていても、だ。

 この一点は、間違いなくグオリエが優れている部分だな。

 度胸だけはある。


「魔導防護コートだな」

「その名を知っている程度の教養があったか。おこぼれの猿にしては上出来だ」


 魔導防護コート。

 一言でいうと、魔術を受けてもダメージを受けない障壁を生み出す加工がされたコートだ。

 今グオリエが纏っている学生服は、その加工がされている。

 その効果は、見ての通り上級攻撃魔術すらも、無効化してしまう性能。


 言うまでもなくとんでもない高級品で、それを用意できるのは上級貴族と王族だけと言われている。

 まぁ、つまり実はフィーアも用意することはできるわけだが。

 必要無いので、特に頼んではいない。


 ともあれ、奴は俺に必勝を確信しているわけだから、あの魔導防護コートは下級魔術の上級化も問題なく無効化できるのだろう。

 上級攻撃魔術を防げると確認できた時点で、その先も当然可能だろうという前提で進める。


「だが、貴様の魔術では俺を崩すことはできん。それを理解してしまった愚かさを呪うがいい」

「……」

「故に、慈悲をやろう。俺の魔術の前に地を舐める慈悲を!」


 そして、俺が魔術を使った後は、グオリエが反撃する番だ。

 高らかに奴の杖――細身の剣を模したもの――を掲げる。


「火よ、燃えろ!」


 下級火炎魔術。

 仮にも俺が上級火炎魔術を使った後に放つには、あまりにも力不足なはずの魔術。

 しかし、その詠唱と共に生み出された炎は――明らかに、俺の上級火炎魔術の炎よりも大きなものだった。

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