第74話 決闘③

 周囲の視線が、一斉に俺とグオリエに向けられる。

 好奇の視線。

 結局のところ、この場に集まった学生の中で、俺とグオリエのことを知っているものは殆どいない。

 グオリエに対する認識はバファルスキ家の子息だし、俺に対する認識は地味な印象の見知らぬ学生だ。

 俺が特待生だということを知る人間は、この場にはいないだろう。


 それがごくごく自然な認識なのだから、どちらかに肩入れするという気配はない。

 あくまで他人事の、ちょっとした見世物としか考えていないだろう。

 実際、この決闘の勝敗が彼らに影響することはないのだから、これは純粋な見世物と言って差し支えはないのである。


 クラスの連中は、殆どこの場にいない。

 怖いのだ、この決闘の結果を見届けるのが。

 たとえグオリエが必勝するとしても、そもそもグオリエが勝つことだって彼らは望んでいないのだから。


「では、これより決闘を開始する。事前に通達した通り、この決闘は移動禁止の魔術戦によって行われる」


 俺達が揃ったことで、立会人である教師がそう告げる。

 ガヤガヤと、見物人たちが騒がしくなった。


「移動禁止の魔術戦ってなんだ?」

「移動したら負けというルールで、魔術の打ち合いだけで決闘をするんだ」


 そもそも、決闘事態が珍しい行為なのだから、移動禁止の魔術戦について知らないものがいるのも当然だ。

 むしろ、知っている者がいることのほうが驚きである。


「ってことは、バファルスキ家の子息が圧倒的に有利だな。どういうつもりであの学生は決闘を挑んだんだ?」

「わからない、なにかやむにやまれぬ事情でもあるのだろうか」


 と、思ったが。

 貴族にとって決闘とは重要なイベントだ。

 知っている者も普通にいるのだろう。


「では、改めてこの決闘における互いの要求を確認する!」

「ああ」

「ええ……え?」


 いやちょっと待て?

 普通に頷いてしまったが、それは少し不味くないか?

 だってアレだぞ、俺達がこの決闘で要求するないようって、つまるところ。


「双方の要求は、互いに”フィーア・カラットには金輪際関わらないこと”である。相違はないか!」

「相違ない」

「……そ、相違ない」


 俺は少し小声で返した。

 だが、普通に教師には伝わる声量だったし、そもそも教師が要求を確認した時点で手遅れだ。


「す、すげぇ……色恋沙汰だ。色恋沙汰で決闘してるぞあいつら!」

「あいつらが要求に上げたフィーアって貴族は誰だ? カラットなんて家名聞いたことないぞ」


 周囲の喧騒は最高潮に達している。

 俺は、せめてフィーアがここにいることがバレないよう、彼女を視界に修めないよう努めた。


 が、グオリエがばっちりフィーアの方を見ていたことで、それは無駄に終わってしまった。

 おのれグオリエ……

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