第73話 決闘②
俺は、決闘に指定された時間に則って、早めに会場へやってきた。
だというのに、周囲にはすでに人だかりができていて、下手をすると隣のフィーアと離れ離れになってしまいそうだ。
少し気恥ずかしさはあるものの、フィーアの手を取ると俺は人混みの中に入っていく。
「ひゃあう」
「は、恥ずかしそうにしないでくれるか?」
俺まで恥ずかしく感じてしまう。
ただでさえ、これだけの人だかりができた場所で、俺はこれからフィーアを巡ってグオリエと決闘をするのだから。
なんとも娯楽小説のような、如何にもという決闘の理由。
彼らがここまで注目を集める理由は、決闘を行う理由が痴情のもつれだからというのもあるだろう。
人の恋路というのは、いつだって話の種になるものだ。
今日みたいな、眼の前のそれがフィクションではないかと疑いたくなるくらい、因縁が絡み合った決闘であれば、なおさら。
「……の割には、みんな全然ハイムくんに気付かないね」
「俺の顔を知らないんだから、当然だろ。今ここにいる連中にとって、俺とフィーアはどこにでもいる学生の一人に過ぎないよ」
ようするに、俺とフィーアの容姿は目立たないのだ。
もちろんフィーアは、見目麗しい少女だが。
フィーア・カラットの髪色は、決して目立つものではない。
ステラフィア王女の場合はまた別として。
俺は人混みをかき分け、立会人の教師を見つけた。
声を掛けると、すぐに舞台へ上がることを許される。
いよいよ、決闘が始まるのだ。
「――アレが、今日の決闘に挑む学生?」
「変だな、全然そんなふうには見えない。アレじゃバファルスキ家の子息と戦いになるとは思えないぞ」
舞台の上にたった俺へ、様々な言葉が向けられる。
その多くは、本当に俺がこれからグオリエと決闘するのかという疑問に満ちたものだった。
「彼が戦うのは、上級貴族バファルスキ家の次男坊だ。長男ほど才能に恵まれていないとは言え、攻撃魔術の実力と、風貌の厳つさは折り紙付き」
「……どう考えても、勝ち目はないよな」
彼らには、俺が普通の学生に見えているだろう。
ぶっちゃけ俺だって外見を見れば、自分が特別な存在とは思えないくらい普通の顔をしていることは理解っている。
とはいえ、ここは魔導学園。
そもそも、見た目がどれだけヒョロく経って、魔術士としての実力さえアレば相手を打ち負かすことはできるのだから。
なんて、考えていると。
――しばらくして、グオリエはやってきた。
決闘の開始時刻直前。
敵意に満ちた顔で、奴は俺を見た。
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