第72話 決闘①

 次の日、俺がクラスにやってくるとグオリエはすでにクラスにいた。

 こちらに目を向けることもなく、ただそこにいる。

 異様な雰囲気に包まれているのは、それに圧倒されている連中だ。

 クラスメイト達が、恐怖と侮蔑を綯い交ぜにした感情をこちらに向けている。

 こいつらの感情の経緯は理解できる。


 クラスメイトは、そもそも俺とグオリエの確執に決着などついて欲しくなかったのだ。

 この決闘、グオリエが勝てば俺というグオリエの攻撃対象がいなくなる。

 そうなった時、次に自分が攻撃対象となることを連中は恐れているのだ。

 そして、俺が勝てば言うまでもなく、グオリエという自分たちが俺を攻撃することを許していた免罪符がいなくなってしまう。


 どちらにせよ、この決闘はクラスメイトにとって何の利益もない。

 だからグオリエに恐怖するし、その恐怖を俺への侮蔑という形で発散しようと逃避している。


 そんな異様な空気の中でホームは進行し、一日が始まった。

 なお、フィーアは努めていつも通りに振る舞っていた。


「何とも言えない空気だったな」

「……私、正直ちょっと怖かったよ、朝のクラスの空気」


 昼休憩、二人でそんなことを話していた。

 自分に向けられたものではないとしても、あの場所を支配していた気配はそのすべてが悪意に満ちていた。

 フィーアにとって、居心地がいいはずはないだろう。


「……今日、全部が終わるんだね」

「ああ、クラスの連中が俺を侮蔑するのも、グオリエが俺を攻撃するのも――これが最後だ」


 その日は珍しく、食事中の会話はほとんど無く。

 内容も言うまでもないが、すべて午後の決闘にまつわるものだった。

 時間は、あっという間に過ぎていく。


 決闘というのは、学園においてもレアなイベントだ。

 いくら、魔術という他人を容易に攻撃できる武器を持っていたとしても。

 学生同士の争いで、決闘という戦いの舞台が必要になることは少ない。

 所詮は子ども同士の諍い、教師が立ち会ってまで力で優劣を決めるほうがスマートではないのだ。


 なにより、貴族の学生にとって決闘とは非常に重要で、大きな意味を持つ行為。

 古来より、譲れぬ者同士が譲れぬものを賭けて戦う様は、貴族にとってあこがれとも言える光景だ。

 その分、もしも決闘という手段に打って出る場合。

 自分がそのあこがれに相応しいかどうかは、考慮の余地がある。


 何がいいたかと言えば、決闘は貴族にとって注目を集めるイベントであり。

 俺とグオリエの決闘にも、それ相応の観客が詰めかけているということだ。

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