第71話 挑発⑤

「――問題ない。続きをお願いしてもよろしいだろうか」

「ハイムくん?」


 だが、断言されても俺の考えは変わらない。

 決闘を挑んだ以上、それに勝つ。

 その方針を帰るつもりはない。


「……理解った。では次に、決闘での要求についてだ」

「ええ」

こと」

「……やっぱり、そう要求してくるんだ!」


 フィーアが、怒りを覚えたのか視線を鋭くする。

 ここにはいないグオリエを、睨みつけているようだ。


「要求の内容は、俺も同じで構いません。決闘の内容も、同じく」

「自分に関わらないことを、決闘の内容に盛り込まなくていいのか?」

「それは、もしこの決闘が終わってもグオリエが俺にちょっかいをかけてくるようなら、その時に決闘に要求すればいいので」


 この決闘は、俺とグオリエの上下関係を決定的にすることが主題。

 俺が負ければ、言うに及ばず。

 このルールで俺が勝てば、グオリエは絶対に俺には勝てないと自分で証明することになる。


 もう、奴のプライドが俺と関わることを許さないだろう。

 そうでなくとも、もし今回俺が勝つなら、次も俺は勝つだけだ。

 その時に、新しく俺に関わるなという要求を通せばいい。


「相わかった。決闘はここに成立した。立会人は私が務める。なにか質問はあるか」

「何も」

「では、明日修練場で。……気をつけろよ、ハイム」


 教師は、あくまで俺の肩を持ってくれていた。

 でなければ、ここまで親身に言葉をかけてはくれないだろう。

 そのうえで、当日彼は立会人を務めることになる。

 その時は、公平な判断をしなくてはならない。

 言外に、そう告げていた。


「……ふぅ、いよいよ決闘かぁ」

「なんか悪いな、色々とヤキモキさせちまって」

「ううん。ハイムくんが決めたことだもん。私はそれを受け入れるよ」


 受け入れたうえで、フィーアはそれでも不安だと顔を落とす。

 ……こういう顔をさせてしまう時点で、俺はそもそも間違ってるんだろうな。


「それに……いつかはこうなってたよ。私も、ハイムくんも……あいつだって、こういう形に落ち着くのは解りきった性格だった」

「フィーア……」

「……だから、少し自分が情けないんだ。私、お父様からハイムくんを守るよう言われてたのに」


 常に俺の隣にいること。

 それがフィーアなりの、俺を守るという行動だった。

 それを無駄にしてしまったのは、やはり俺だ。

 あの時、フィーアをバカにされたことで、感情に身を任せたことを、やはり後悔しそうになる。


「でも、問題ない」

「というと?」


 ――しかし、そう告げたフィーアの顔は、またいつもどおりの元気な彼女の笑顔に戻っていた。



「だってハイムくんは勝つもん、だから問題ない! 私が保証します!」



 それは、信頼だ。

 フィーアが俺に向けた。

 俺が、絶対に守らなくちゃいけないもの。

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