第68話 挑発②

「狂っているのか!? そんなことすれば、お前は終わりだ」

「知ったことか! もはや貴様に生存する資格はない。俺が認めない、俺が許可しない! 故に燃やす!」


 一体、どれほど狂えばそんな馬鹿げた発言が飛び出すのか。

 俺にはわからない。

 俺が奴をここまで追い詰めたのか?

 追い詰められたという事実が、奴の中で免罪符となってこんな理不尽なことをのたまっているのか?

 わからない、眼の前の存在が、俺には到底理解できそうになかった。


「止めてほしくば、決闘を申し込め!」

「決闘だと……?」


 グオリエが、俺を挑発し決闘を挑ませたいことは理解っていた。

 だからその発言事態に、疑問符を浮かべる理由はないのだが。


「そうだ。お前から決闘を申し込め! 俺はそれを受ける。そうすれば、この図書館は燃やさないでおいてやる!」

「…………」


 考えるべきことは、幾つかあった。

 グオリエの目的が、あくまで脅迫だというのなら。

 この場で奴が本当に図書館を燃やす危険性は薄い。

 そもそも、そんな度胸が奴にあるのかすら、俺にはわからない。

 グオリエという個人を、俺は知ろうとしてこなかった。

 必要がなかったのだから、当然だ。


「……どうして、そこまで決闘にこだわるんだ?」

「…………なんだと?」

「図書館を人質に、一方的に俺を甚振りたいならこの場でもできるだろ? わざわざ決闘でなければならない理由は何だ?」


 そうだ。

 奴は図書館という脅迫を、あくまで決闘を挑ませるための手段としか思っていない。

 本命はあくまで決闘なのだ。

 それには二つの意味がある。

 決闘を俺から挑ませ、グオリエが方法を決定すれば必ず自分が勝つと思っている。

 そしてもう一つは、奴が異様なまでに決闘に対して執着しているということ。


「黙れぇ! 貴様はこの決闘を受けるか、図書館を燃やされるか選べばいいのだ!」

「歪んでいる、流石におかしいぞ。そこまで決闘に執着する理由を話たくないのに、決闘に執着するのは有り体に言って狂っている!」

「黙れと言っているのが、聞こえないのか!」


 グオリエの手に、炎が生まれた。

 上級火炎魔術。

 ここで放てば、図書館が大変なことになる。


「もはや、知ったことか! 貴様が決闘を挑まないのなら、この図書館を燃やし尽くすだけだ!」

「……!」

「貴様のような、才能をひけらかす排泄物も、その根源ももはや不要だ!」


 奴は――才能という言葉を口にした。

 そこに、歪んだ本音が垣間見えた気がした。

 だが、その直後。


「もはや何も要らぬ。俺が愛してやろうというのに、その寵愛を受け取らない雌犬も!」

「……!!」

「生まれてこなければよかったのだ! 俺を愛さない女など!!」


 俺は、その言葉だけには、我慢ができなかった。


「受ける」

「……何?」



「決闘を受ける。だからその口を今すぐ閉じろ、三下貴族」



 その発言が、どれだけ俺の理性から外れていたとしても。

 愛する人を侮辱されて、否定されて。

 そこで衝動に身を任せなかったら。

 俺は一生後悔すると、そう思ってしまったのだ。

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