第65話 彼女ですから⑤

「あら」

「あ」


 この状況、知り合いに見られたら恥ずかしいな、とか思っていたら。

 バッチリ見られた。

 この図書館の司書さんだ。

 当然、入り浸っている俺とは顔見知りである。


「ハイムくん、こんにちわ。平民向けスペースこっちにいるなんて珍しいわね」

「あ、ああ。今日はたまたまこっちの入口から入ってな」

「ふぅん……その子が原因?」

「ふぇ?」


 美人な黒髪の女性司書だ。

 こっちを、楽しそうな視線で見てくる。

 対するフィーアは、読書に集中していたのか、ようやく司書さんに気づいたようだ。


「へぁ、こんにちわ」

「こんにちわ。もしかして、ハイムくんの彼女さん?」

「ひゃひ!」


 流石のフィーアも、俺に寄りかかりながら本を読んでいるのを見られるのは恥ずかしかったようだ。

 ついでに、不意打ちだったのもあるだろう。

 顔を真っ赤にしながら飛び上がった。


「あー、えっと、彼女は……」

「はい! 彼女のフィーア・カラットです!」

「あ、いやそういう彼女じゃなくて……」

「ふふ、見れば解るわよ」


 やばい。

 これはアレだ。

 バイト先のおばちゃんが姦しくなってる時のアレだ。


「それにしても、ハイムくんにこんなかわいい彼女ができるなんて。羨ましいわねぇ」

「ちょっと司書さん、あんまりからかわないでほしいんだけど……」

「あら、いいじゃない。ねぇねぇ、話を聞かせてちょうだい。ハイムくんのどこが好きなの?」

「え、ええっと……えへへ……」


 くっ……俺がこういうのは気恥ずかしいと思うタイプなのを察して、フィーアの方を攻めている!


「何聞いてるんだ、仕事サボってする話じゃないだろ」

「まったく、ハイムくんは堅いわねぇ。フィーアちゃんだったっけ? ちゃんともみほぐして上げなきゃだめよ?」

「もみ!?!?!?!?」


 ステイ、フィーアステイ。

 声はなんとか迷惑にならない程度で済ませているけれどもうなんというか、反応が騒がしい。

 凄い勢いで顔を真っ赤にしながらパタパタしている。


「じゃあ、ゆっくりしていってね」

「……あんまりこっちをからかわないでくれ」


 ともあれ、なんとか司書さんは満足してくれたらしい。

 手を降って、その場を離れていった。


「……いやぁ、嵐のようだった」

「はわぁ……顔があっついよー」


 二人して、なんとも気まずい雰囲気になる。

 この空気のまま、静かな図書館で時間を過ごせというのは、何とも酷な話だ。


「えーっと、あー……」

「……これからどうしよっか、ハイムくん」


 視線を合わせたり、離したり。

 そういう時間が、しばらく過ぎていった。

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