第64話 彼女ですから④

 付属図書館は、平民でも利用できるようになっている。

 とはいえ、魔導学園事態が貴族の場所で、その附属図書館ともなれば敷居は高い。

 そこで、入口を分けることで棲み分けを図った。

 貴族は王城から、もしくは学園側から入ることになる。


 俺達が入った入口は、平民向けの入口というわけだ。

 だからか、入口の側は結構人が多い。

 家族連れや、暇そうな子どもたちが遊びに来ていたりする。


 だからまぁ、学生服で入ってくると目立つわけだな。

 結構な視線を俺達は集めている。

 ただ、その視線はどちらかというと好奇心による視線が多い。

 単純に、俺とフィーアが貴族らしい貴族って感じではないからだろう。

 貴族ってのは、どいつもこいつも派手な髪色が多いからな。


 いや、違うか?


「ささ、あっち行こ、ハイムくん」

「お、おう」


 そう言って、周囲の視線にたじろぐ俺をフィーアが引っ張る。

 ……これアレか?

 カップルに対する視線か?


「もー、ハイムくんどうしてそんな緊張してるの?」

「周りの視線が、なんか俺達を恋人とみなして見てる気がして」

「気にしすぎじゃない? それに、カップルなんて結構いるでしょ?」


 いや、貴族のカップルは流石に俺達しかいないだろ。

 とはいえ、入口の人が多いエリアさえ抜けてしまえば視線も少なくなる。

 俺達は、適当に図書館を周りながら話をすることにした。

 無論、図書館なので周りの迷惑にならない程度の声量で、だ。


「平民向けの本は、娯楽小説と簡単な教養の本が多いね」

「そりゃ、平民向けに学術本とか置いてもしょうがないしな」

「まぁ、貴族向けの本にも娯楽小説は多いけどさ」

「娯楽小説は平民、貴族問わず愛好者は多いからな」


 なにせ、識字率の高いこの国で、特に人気のある娯楽が娯楽小説だ。

 他の趣味は金がかかりすぎるからな、観劇とか。

 後、でかい街でしかやってないし。

 本は辺境の村でも読むことができる。

 その上、文字の勉強にもなる。

 一挙両得というやつだ。


「俺の故郷は、幸いそういう娯楽小説を多く読める環境だったからな」

「それで、魔術本以外に娯楽小説もいっぱい読んでるんだ」


 適当に、見覚えのあるタイトルを手にとってパラパラとめくる。

 平民向けの娯楽小説は定番と呼ばれる名作が多い。

 俺の手に取った本も、そういう一冊だった。


「フィーアは?」

「んー、私の場合はほら、移動中に読めるのが良かったんだよね」


 なるほど、王女だから――というわけでもなく。

 貴族なら、魔導馬車とかでの移動も多くなるだろう。

 その間に読める本というのは格好の暇つぶしであり、教養の種だったわけだ。


「あー、これ懐かしいな。昔いっぱい読んだ」

「ああ、その本は俺も好きだよ」

「えへへー、おそろいおそろい」


 言いながら、俺の肩に体重を預けて、本をめくるフィーア。

 やはり、気恥ずかしい。

 俺の視線は、本と何も無い場所を、行ったり来たりしていた。

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