第63話 彼女ですから③

「うー! やだやだやだー!」

「いやいやいや」


 わがまま放題な王女様が、今日もまたワガママを仰っておられる。

 とてもかわいらしい。

 だが、負けてはならない。


「これは対策、対策なんだよ! だからもっと一緒にいるの!」

「これ以上一緒にいたら、フィーアが俺の部屋に来るか、俺が王城に向かうことになるだろ」

「ハイムくんのお部屋! 行きたい!」

「しまった、余計なことを言った」


 失言だった。

 フィーアは俺の手を掴みながら、なんとか俺を俺の部屋へと連れて行こうとしている。

 自分ごと。


 ――何をしているかと言えば、今は下校中だ。

 俺とフィーアの通学路は途中までは同じ道である。

 だから、対策の一環としてその分岐路まで二人で帰るようになったわけだけど。


 今は、フィーアがもっと一緒にいたいと言いだしたのである。


「今日は用事もないんだよ!? だったらハイムくんと一緒にいたい! いたいいたいいたいの!」

「……まぁ、そこまで言われると、俺も一緒にいたいけどさ」

「でしょー!」

「それはそれとして、俺の部屋はダメだ」


 掃除もしてない部屋に彼女招けるほど、俺は面の皮が厚くないんだよ。

 正直、部屋の八割が魔術本に覆われているつまらない部屋とはいえ、見せるにしてももう少し体裁は整えたい。

 あと単純に恥ずかしい。


「……そうだ、ここからならアレだ、あそこに行こう」

「え、どこぉ?」

「――図書館だよ」


 魔導学園付属図書館。

 俺の、主な行動拠点とも言える場所だ。


 付属図書館は、学園から少し離れた場所にある。

 敷地内から直接向かうこともできるが、この場所からなら、フィーアの帰り道を少し歩けば直接入口にたどり着くことができる。

 というか、施設が王城と学園の間にあるのだ。


「この図書館はねー、王城からも入れるんだよ? 文官の人たちとかが、よく利用してるんだ」

「フィーアは、図書館は利用するのか?」

「小さい頃は結構利用してたよ」


 認識阻害魔術を覚えてすぐの頃は、結構入り浸っていたらしい。

 その頃に、気になる本はだいたい読んでしまったので、今は時たま立ち寄る程度らしい。

 まぁ何となく分かる。

 好奇心旺盛で、新しいもの好きなフィーアのことだ。

 入れるようになってすぐは、秘密基地感覚でよく訪れていたんだろう。


「そういえば、学生になってからは入ってないかも。学校生活、いそがしかったからね」

「やること多いだろうしなぁ」


 なんて話をしながら、図書館に入る。

 ――ふと、その時。

 どこからか視線を感じたような気がした。

 振り返っても、そこに誰もいなかったが。

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