第62話 彼女ですから②

「対策は大成功だったね」

「案外、ちょっとしたことでどうにかなるもんだな」


 昼食、学食を二人で食べながら話をしている。

 なんてことのない、いつもどおりの日常。

 しばらく前から、これが当たり前になり。

 そして今は、それがもっと自然なことになろうとしている。


 フィーアは、笑顔でカレーを頬張っている。

 その表情もずいぶんと見慣れてきた。


「こうしていると、付き合ってるみたいだな、俺達」

「付き合ってるじゃん」

「いや、それはそうなんだけどさ……」


 そりゃもうバッチリ告白したけどさ。

 それはそれとして、気恥ずかしいものは気恥ずかしいのだ。

 告白した上で、“対策”を取るまで表での関係を変化させようとしなかったのは、そういう感情が俺にあったからかもしれない。


「私はねー、嬉しいんだ」

「何がだ?」

「大手を振って、ハイムくんと一緒にいれること」


 カレーを、見栄えが悪くならない程度に混ぜ合わせながらフィーアは言う。

 いい感じにルーと米を一つにまとめたら、そのまま口に含んだ。


「私ね、付き合ってるのにそれを隠すって、ちょっとやなの」

「そうなのか?」

「うん、だから今こうしてるのは、スッキリした気分」


 対する俺はといえば、どちらかといえば関係を隠したい思いが強い。


「俺は……そうでもないな」

「えー、いいじゃん見せつけようよー」

「恥ずかしいだろ? フィーアはそうじゃないのか?」

「ぜんぜん!」


 いいながら、一足先にカレーを感触したフィーアは、スプーンを置くと俺の食事に使っていない手に、自分の手を重ねた。

 少し、緊張する。

 食事をする手が、止まった。


「それに、二人きりの秘密って……特別な気がしないか?」

「うっ……! 確かに」


 ちらりと、視線を周囲に向ける。

 俺達に向いている視線は、殆ど無い。

 というか、人の多い学食では絶無に等しいだろう。

 時折、視線が俺達の重なった手に向く人間がいるが、カップルだって珍しいものではない。


 まぁそれはそれで、俺の容姿はフィーアに対して釣り合いが取れているのか、とか。

 こうして自分が好きだと思っていることに好かれるなんて、おこがましいのではないか、とか。

 色々、考えてしまうわけだが。


「……特別な秘密なら、他にもあるじゃん」

「ああ……まぁ、そういえばそうだな」


 フィーアが言うように、俺達の間にはカップル以上に特別な秘密がある。

 だからこそ、俺とフィーアの間にはつながりも生まれたわけで。


「なので、恋人同士ということは隠す必要はございません!」

「……うんまぁ、そこを否定するつもりは最初からないんだけどさ」


 そもそも、隠さないことが対策なわけだからな。

 敢えて言うことがあるとすれば、やはりこういうところでも俺とフィーアの考え方は正反対だ。

 それをお互いに面白いと思うからこそ、俺達は惹かれ合うんだろう。

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