第60話 嫌がらせ⑤
「……そうなの?」
「考えても見ろ、俺に対して嫌がらせをするなら一番有効なのはいつだ?」
「え? えーと……あ!」
俺の言葉に、フィーアも気がついたようだ。
そう、グオリエは嫌がらせをする絶好のタイミングがあるにもかかわらず、何もしていない。
「私と一緒に雑用をしてる時だ!」
そう、ここ最近俺はフィーアと一緒に雑用をこなしている。
朝はほぼ毎日と言っていいほど、いろいろな雑用で学園を飛び回っている。
グオリエがそのことを把握していないとは思えない。
だったら、雑用の邪魔をすればいいのだ。
それこそ例えば「魔術用の的の処理」に嫌がらせするなら、学園の的という的を破壊して俺達の仕事を増やせば言い。
もちろん、そんなことをすれば大きな問題になるだろうが。
やりようはいくらでもある。
「それをしないのは、まぁ二つ理由があるだろうな」
「一つは、それをやっても結局私とハイムくんが一緒にいる時間を増やすだけだから、だよね?」
結局のところは、それだ。
この雑用とフィーアはやりたいからやっているだけのこと。
究極的に俺達に見返りはない。
強いて言うなら、二人でいる時間こそが見返りなのだ。
だとすれば、それに対して嫌がらせをしても、むしろ俺達に利することをしていることになる。
それは、グオリエの望むところではないだろう。
「まぁ、もし私がそんなことされたら、今以上に怒るだろうけどね! ぷんぷんすこだろうけどね!」
「落ち着いてくれ」
「……それで? もう一つの理由って?」
「それこそ、今まさにフィーアが言ったとおりだろう」
と、俺の上げた二つ目の理由。
しかしフィーアは、それに疑問符を浮かべて首を傾げた。
「どういうこと?」
「単純だ。グオリエはお前を怒らせたくないんだよ」
「……え?」
どうやら、すでに自分が怒りすぎていて、その可能性を考慮すらしていなかったようだ。
「そもそもグオリエが嫌がらせを始めたのは、俺とフィーアを引き離すためなんだから」
「……な、何のために?」
「…………フィーア? もしかして気づいてなかったのか?」
いや、怒りすぎていてどころではない。
そもそもフィーアは、その事実に気づいてすらいないのか?
……初めてお前に同情したぞ、グオリエ。
「グオリエは、お前に惚れてるからだ。だから近くにいる俺を攻撃してるんだ」
「………………嘘だぁ」
「何一つ身に覚えがないのか……」
まぁ、あの態度だから仕方がない。
思い返したら、同情する気持ちがさっぱり消えたぞ。
ともあれ。
「グオリエが雑用に嫌がらせをしないのは、フィーアがいるからだ」
「……じゃあ、対策は簡単じゃん!」
「と、いうと?」
フィーアは、それはもう目をらんらんに輝かせて宣言した。
「学校にいる間は、ずっとハイムくんと一緒にいる!」
「……マジか」
「彼女だよ?」
「……まぁ、彼女だもんな」
残念ながら、反論する余地はどこにもなかった。
……いや、別に残念でもないな。
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