第58話 嫌がらせ③

「最悪だよあれ、何アレ!」

「まぁ、まぁ」


 ホームが終われば、その後は講義の時間だ。

 今は選択講義で、フィーアと二人で席を取って座っている。

 まだ学生もまばら、講義が始まるまで時間がある。


「嫌がらせ事態は、想定できたことだ。今までは必要なかったからやってこなかっただけで」

「それにしても、だよ! あんな方法ありえない!」

「アレでも、まだ軽いものだと思うけどな」


 席を燃やされても、別の場所からもってくればいい。

 どこかに席を余らせている教室もあるだろう。

 グオリエだって、あの程度のことで効果的な嫌がらせができるとは思っていまい。

 まぁ、まさかその場で机と椅子を作り上げるとは思ってなかっただろうが。


「でも、ハイムくんのアレはすごかった。どういう魔術なの?」

「中級樹木魔術に、上級錬金魔術を重ねたんだ」

「……中級に上級を!? それも、別々の魔術を重ねるって……もっと凄いよね?」

「まぁ、俺ができる魔術のなかでも最高峰のものだったことは間違いない」


 これ以上となると、上級に上級を重ねるしかない。

 しかし、それができる魔術師は歴史上で見ても稀だ。

 俺も今はできない。

 まぁ、今は……だが。


「お父様ならできるかな……」

「できるかもな、あの方は魔術の天才って話だし」


 できるとしたら、歴代のマギパステル王家のなかでも屈指の天才と謳われるフィオルディア・マギパステル陛下くらいだろう。


「とりあえず、嫌がらせについては今後対策していくよ」

「気をつけてね」


 正直、奴がこれから何をしてくるか読めない。

 一体どこから攻めてくるやら。


「……あいつ、どうしてこんな嫌がらせするんだろ」

「いよいよグオリエをあいつ呼びか」

「だって……! っていうか、その感じだとハイムくんは理解ってるの?」

「まぁな」


 なんとなく、想像はつく。

 あいつは、直接的に俺を攻撃するつもりはないだろう。

 正面からは格差がついてしまったから、自分が有利な状況で俺を貶めるつもりのはずだ。


「――決闘だろうな」

「決闘……って、あの?」

「そう、その決闘」


 この学園には、決闘というシステムがある。

 魔術師同士の諍いを、平和に収めるためのシステム。

 魔術を用いた戦闘を専用の場所で行う。

 これにより、死人を出さずに魔術の優劣を直接決められるのだ。


「決闘は、挑まれた側がルールを設定できる。グオリエは俺に決闘を挑ませたいんだ」

「自分に有利な条件で勝って……ってこと? 最低じゃん」

「だから、その誘いには乗らない。あいつは嫌がらせという手段に出た。いずれ行き過ぎた行動にでてボロを出すだろうから、それを待つ」


 だからまぁ、要するに根比べになるだろう。

 あいつがボロを出すくらい過激な嫌がらせをするようになるまで待つ。

 いつも通り、受動的な選択だった。

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