第56話 嫌がらせ①

「いやぁ、すごかったね」


 昼、フィーアと昼食を共にしながら。

 今日は学食で昼食を食べることにした。

 比較的授業が早くおわったために、学食が空いていたのだ。


「教官には感謝だな、彼ができるだけ客観的に説明してくれたおかげで、クラスの連中も教官の説明を納得できた」

「ハイムくんが説明してたら、また拗れてただろうねぇ」


 違いない、と昼食をかっこみながら頷く。


「正直言うと……自分でもどうかと思うけど、少しすっきりした」

「それはフィーアの人が良すぎるだけだ。教官を見ろ、めちゃくちゃ楽しそうだったぞ」


 フィーアは人が良すぎる。

 クラスの連中があそこまで色々と最悪でも、ギリギリ隔たりを持たずに接しているんだから。

 だから、あのやり取りでスカっとすることにすら、悪いと思ってしまうんだろう。

 教官くらいノリノリでも、別に誰も責めやしないだろうに。


「それでもだよ。……っていうか、ハイムくんはどうしてああしようと思ったの?」

「んー、もともとフィーアとこうして付き合い出した時点で、グオリエのことはどうにかしなくちゃいけなかったからな」

「つきっ!?」

「あ、ああいや! そうじゃなくって、いやそうじゃないけど。この場合付き合うってのは、最初に資料室でフィーアと出くわした時だ」

「一緒じゃん!」


 誤魔化そうとして、結局誤魔化しきれなかった。

 顔を真っ赤にして、フィーアは頬を膨らませている。


「と、とにかく。いつかどこかでグオリエの対処は必須だった。ちょうど良かったんだよ、喧嘩になるとこっちが不利だからな」

「まぁ、特待生って言っても平民だからねぇ、問題を大きくしすぎると先生も庇いきれないし」


 だから、あの方法で優劣をつけられたのは、こっちにとって幸運だった。


「でも、彼だってバカじゃないんだから。特待生相手に魔術の腕を競っても勝てないって理解らなかったのかな」

「正直、勝てなくて良かったとは考えたと思ってたんだろう」

「? それじゃあ結局同じじゃない?」

と周りに見せつけられれば、最悪それで問題なかったんだ」


 つまり、俺もグオリエも上級攻撃魔術を使えるということがわかれば、最悪痛み分けで済んだ。

 グオリエは上級攻撃魔術と上級魔術の区別もついてなかったからな。

 つまり、自分の使える魔術のがあるとは考えていなかったんだ。


「ふーん、たしかにそれなら納得かも」

「そもそも上級攻撃魔術ならフィーアも使えるからな、奴だってそのくらいは織り込み済みだろうから、完全に考えなしってわけでもないだろ」


 ただまぁ、そこまで言ったうえで……

 結局。


「でも、俺よりできると思ってんだろうなぁ……」

「……まぁうん、それはそうだね」


 という結論になるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る