第54話 貴族④
「一般的に、魔術とは等級で使用できる効果が決まっている」
教官が語る。
それは魔術のごく基本的な教養だ。
魔術には、下級、中級、上級の等級がある。
そして等級によって使える魔術が決まるのだ。
火炎魔術なら、純粋に破壊力の違いがコレで決まる。
「故に、魔術は下級より上級の方が扱いは難しい。だから、戦闘においては常識的に考えれば上級を使うほうが火力は高い」
しかし、と教官はその常識を否定する。
「だがそうしてしまうと、自身の周囲に漂うマナはすぐ枯渇してしまう。魔術は周囲のマナがなければ使えないからな」
マナは、魔術を使うための前提条件だ。
そして魔術を使うと一時的に消費されてしまうものでもある。
もちろん、少しすればマナはまた周囲を満たすが、あまり連続して上級魔術を使ってしまうとマナは枯渇してしまう。
戦闘において、それは致命的だ。
「それに、魔術で人を殺すには、上級魔術ほどの火力は必要無い。一般的に、攻撃魔術の上級魔術はそこまで学ぶ必要のないものだ」
「せ、先生! 質問です!」
「なんだ、フィーア」
そこで、フィーアが手を上げた。
「じゃあ、どうしてこうやって授業で上級魔術を教えるんですか?」
「いい質問だ。理由はとても単純で、あらゆる上級魔術の中で攻撃系の上級魔術が一番制御が簡単だからだ」
制御とは、魔術を使うための根幹的な技術だ。
イメージとしては、バランスの悪い建材の上で姿勢を保つようなものだろうか。
そのバランスの悪さが、魔術の制御の難しさであり、魔術の効果の強さを決める。
「故に、上級魔術と上級攻撃魔術では、その間にまた一つ制御の難しさに差がある。故に、上級攻撃魔術を使えるのと、上級魔術を使えるのでは、魔術師として練度ではまた差が出てくるのだ」
「――ふざけるな!」
そこで、叫んだ。
グオリエが、今度こそ顔を憤怒まみれにしながら。
「上級攻撃魔術も、上級魔術だ! それが使えれば、上級魔術の使い手としてなんら不足はないであろう!」
「軍属の貴族なら、そうだな。だが、魔術師としては上級攻撃魔術以外の上級魔術も使えないのでは一流は名乗れないだろう」
その言葉に、グオリエの顔が更に歪んだ。
初耳だったのだろう。
軍属の貴族というのは、魔術師とはまた別のカテゴリだ。
軍に所属するうえでは、上級攻撃魔術さえ使えれば天才という評価を受けるだろう。
だが、魔術師としてはそれでは足りない。
その事実は、魔術師としてより専門的な教育を受けなければわからない部分である。
上級攻撃魔術で、魔術の練度に満足してしまったグオリエが知らないのも無理のない話だ。
「そういえば先生、下級魔術の上級化ってなんですか?」
「ああ、そうだな。一言で言えば、上級魔術よりもさらに制御の難しい技術だ」
その言葉に、グオリエは完全に愕然とするのが見えた。
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