第53話 貴族③
グオリエの才能は本物だろう。
上級魔術は、上級貴族だから使えるようになるものではない。
上級貴族であるというグオリエの自負が上級魔術を使えるまでに彼を至らしめたのである。
無論、それは素晴らしいことなのだが、だからこそ惜しいなとも思ってしまう。
奴は満足してしまっているのだ。
上級魔術が使える自分という現状に。
それでは、真に魔術の才能があるとは残念ながら言えなかった。
「次、ハイム! 前へ!」
的を跡形もなく燃やし尽くしたグオリエの魔術の次に、俺の名が呼ばれた。
そこで、クラスメイトからの嘲笑が聞こえてくる。
こいつら、グオリエがこの場で俺とグオリエの格の違いを証明するために我慢していたのだと理解した途端、通常営業に戻りやがった。
そして、戻って来るグオリエとすれ違う。
「理解ったかおこぼれ、コレが本当の魔術というものだ」
「……俺は残念だよ」
「何?」
「そこまで魔術の素養があって、どうしてその先を目指さないのか。不思議で仕方がない」
「おい、待て――」
グオリエが静止しようとするが、俺がその場を離れると手が止まる。
授業中だ。
無理に俺を攻撃しようとしても教官の静止が入ってしまう。
俺が所定の位置に経つと、杖を構える。
一つ息を吸ってから、
「――火よ、燃えろ」
杖に、火を灯す。
「……ハイム? それは下級火炎魔術ではないか?」
教官の不思議そうな声。
――直後、後方からクラスメイトの笑い声が響いた。
口々に、俺が下級火炎魔術を使ったことをバカにしているらしい。
距離があって聞こえないが、フィーアの顔を見れば内容は想像がつく。
落ち着いてくれ、フィーア。
意図あってのことだから、これは。
「教官。アレをやってみても?」
「アレ……? ああ、下級魔術の上級化か」
「ええ」
「……くく、君にも一丁前に見栄というものがあったか」
「教官」
悪い悪いと、楽しそうにしながら教官は距離を取った。
俺は、杖に灯った炎に視線を向けて。
「業火よ」
追加で詠唱をする。
すると、炎は先程のグオリエのそれより更に大きくなった。
俺はそれを、的に寸分たがわず命中させる。
凄まじい炸裂音とともに、的が跡形もなく吹き飛んだ。
「な――」
何が、とクラスメイト達の驚愕が広がる。
その驚愕はただのクラスメイトだけではない、フィーアにも広がっている。
どころか――すぐに取り繕ったものの、グオリエさえ驚愕している。
一目で、威力が明らかに上級火炎魔術よりも高かったことが衝撃的だったのだろう。
教官が解説する。
「いまのは、下級魔術の上級化だ。見ての通り、ただの上級魔術よりも、効果が高い」
その一言に、グオリエの顔が一瞬憤怒に染まった。
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