3.決闘

第51話 貴族①

 グオリエ・ヴァファルスキ。

 バファルスキというのは、この国の軍事に関わる大貴族で、グオリエはその次男坊だ。

 何もかもが自分のものでなければ我慢のならない乱暴者。


 軍事の大貴族の息子というだけあって、魔術の腕はそれなりだ。

 肉体だって鍛え上げられており、決して怠惰で傲慢なだけの貴族でないことは見て解る。

 だからこそ他の貴族も、その剛腕と家柄で言うことを聞かせられるわけだ。


 そして昨日、めでたく付き合うことになった俺の恋人、フィーアに思慕する……まぁ、一言で言えば俺の恋敵であった。


「…………」


 夜空の下で告白をして。

 次の日、俺はホームが始まるギリギリでクラスにやってきた。

 今日は朝の雑用はお休み。

 流石に昨日遅くまでやりすぎたので、二人で今日はゆっくり休もうと決めたのだ。


 それはそれとして、グオリエの事があったので今日もホームギリギリにやってきたわけだが。

 意外なことにグオリエは俺に対して即座に食って掛かることはしなかった。

 そりゃホームが始まるのだから、声をかけてもすぐに教師が入ってきてしまうだろうが。


 代わりに、クラスの空気がとんでもない緊張感に包まれていた。

 グオリエの方から、とんでもない圧を感じるのだ。

 普段であればグオリエの顔色を伺うように俺を罵倒してくるクラスメイトが、口をつぐんでしまう程に。

 今日のグオリエは圧に満ちていた。


 ――視線が、一瞬こちらを向いた。

 殺気。

 敵意や害意どころでは済まない気迫が飛んできた。

 しかし、この程度なら魔術を物理的に飛ばされたほうが俺は恐ろしい。

 気にせず、席についた。


 その直後、再び教室の扉が開く。


「おはようございます!」


 フィーアが、勢いよく入ってきたのだ。

 それと同時にチャイムがなる。

 あと少しすれば教師が入ってくるだろう。

 そしてフィーアは、クラスの異様な緊張感に気づいたのか、浮かべていた笑みを引きつらせつつ席につく。

 グオリエはフィーアに対しては圧を飛ばさないものの、教室にいる時点で空気をグオリエに支配されてしまっている。

 だからか、流石のフィーアも俺に対して挨拶をしてくることはなかった。


 ……いや、ほんの少しだけ気恥ずかしそうにしている。

 これは、単純に付き合うことになって照れてるだけじゃないか?

 図太すぎだろ、王族ってのはこうじゃないとやってけないのか?


 ともあれ、教師がやってきてホームが始まる。

 教師もクラスの空気に顔をひきつらせていた。


 しかし、ホームが終わった後。

 不思議なことに、グオリエは俺に声をかけてこなかった。

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