第48話 好きだ④

「見てみて、ハイムくん。空がまっくろー、星も月も全部出てるよ」

「いや……本当にかかったな」


 結局。

 アレから何度も資料の誘惑に負けかけながら、もしくは負けながら。

 俺達はようやく、資料室の掃除を終えた。

 いや本当に長かった。

 掃除事態は考案した風魔術の使い方で、かなりさっくり終わったのだが。

 それ以外の部分が強敵だった。


 資料が多かったこと。

 そしてその資料がどれも興味深いものであったこと。

 俺達は――主にフィーアは、その誘惑に何度も負けて、資料を読み漁ってしまった。

 いや本当に、そこが大変だった。


「しかし、本当にこんな時間まで残って大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ、校舎はまだ明かりがついてるし、王城までの道も街灯があって、警備もしっかりしてるから」

「まぁ、それならいいんだけど……」


 確かに、これだけ暗くなってもまだ学生や教師は結構残っている。

 フィーアが大丈夫というのなら、大丈夫だろう。

 それに……まぁ、フィーアとこうして夜空を眺める経験なんて、何度できるか理解ったものではないのだから。


「夜空ってさ、素敵だよね。あんなにもいっぱい星があって、その多くには名前がついてる」

「そうだな……フィーアは、星空が好きそうだと思ってたよ」

「なにそれ、変なのー」


 フィーアは、とにかく好奇心が旺盛だ。

 旺盛すぎて人生は短いと吐露してしまうほどに。

 でも、それがフィーアの魅力でもあるし、だからこそフィーアは星空が好きなのだろう。


「俺は、どちらかと言えば陽の光のほうが好きなんだよな」

「そうなの!? 結構意外。穏やかで静かな方が好きかと思ってた」

「それは環境次第だしな、日差しだって静かじゃないってこともない」


 そうだ。

 俺は星空のような、無数の輝けるなにかより。

 ただ一つ、空で輝く太陽が好きだ。

 一つのことに熱中する方が、俺は性に合ってるんだと思う。


「……そっか、ハイムくんだもんね。お日様のほうが好きだよね。納得しちゃった」

「ああ、それに……俺は陽の光だから好きなんだ」

「……それって?」


 一つ、息を吸う。


「陽の光は、俺みたいな受け身でしかない人間にも光を平等に照らしてくれる。それが俺には嬉しいんだ」

「……」

「――――――――――へ?」


 正面から、フィーアを見た。

 困惑した視線は、周囲を彷徨っている。

 星空を、資料室を、そして俺を。


 俺の言葉の意味を、必死に理解しようとしてくれているのだろう。

 だから、俺は告げた。

 その答えを明かすように。



「好きだ、フィーア」



 ――夜風が、室内の熱気を冷ますように、窓から入り込んできた。

 俺達は、月明かりの下にいて。

 俺は、太陽のような少女に告白をした。

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