第47話 好きだ③
フィーアと二人で、資料室の荷物を外に持ち出していく。
淡々と、作業は雑談交じりに進んでいた。
風魔術では、埃を精密に本や戸棚から引き剥がすことはできないが、ある程度の勢いで部屋中の埃という埃を吹き飛ばすことはできると結論付けた。
その勢いのある風で、資料がだめになってしまわないようにしてから、魔術を使う。
これなら床を一から掃除したり、部屋の隅を何度もキレイにするはない。
荷物の運び出しを加味しても、それなりの時短にはなるだろう。
「いやー、いっぱいあるねぇ」
「まぁ、長年使われてるだろうからな。その分、貴重な資料もいろいろだ」
「目移りしちゃだめだよ、ハイムくんそういうのすっごく集中して読み始めちゃいそうだし」
「今はしないよ。資料室の掃除が最優先だ」
まぁ、興味がないかと言われれば嘘になるが。
というか、今まさに俺が持っている資料の一番上が気になって仕方がないんだが?
何だよ酒魔術って、そんな人類の欲望をすべて満たすための魔術みたいなものが、この世界には存在してるっていうのか?
とても気になる。
「……そわそわしているの丸わかり。ハイムくん、だめだからねー」
「してないって! ……ああいや」
気付いた。
俺がそわそわしてしまったことで、フィーアが俺の資料に興味を持っている。
明らかに、視線がこっちに向いていて、段々と距離が近づいて生きている。
あんまり近いと恥ずかしいんだが!?
「そこまでそわそわしてると、こっちまで気になってくるんだけどー?」
「いやダメだって! これフィーアが見たら間違いなく興味そそられて掃除が進まなくなる!」
「むむ…………」
その言葉に、フィーアは手を止めてくれたようだ。
よかった……と思ったのもつかの間。
「よし! 見ます! 貸してください!」
「なんでだ!?」
「状況判断だよ、ハイムくん。今日は多少遅れてでも、一気に掃除を終わらせる予定だったよね?」
「あ、ああ……多少夜遅くなっても、問題ないんだったよな?」
「なので、多少遅れても問題ないんだよ、ハイムくん」
こ、こいつ……!
好奇心が効率に勝ったな!?
いや、効率まで計算したうえで好奇心に負けても大丈夫だと判断したわけだ。
なんてこった、正直に話すよりも、徹底して隠す方が正解だったのか!?
「というわけでー、みせなさーいハイムくん」
「だ、ダメだ。ただでさえ時間を食う作業なのに、これ以上遅延するわけには――」
俺がそう言っていると、ぶつぶつとフィーアが何かを唱え。
――その髪色が、金髪に変わった。
「第三王女ステラフィア・マギパステルが命じます! 今すぐその資料を私にみせなさーい!」
「そこまでするかー!?」
やいのやいの。
まぁ、口ではダメだダメだと言うものの。
フィーアとそういうやり取りをするのは、楽しかった。
結局、すっかり空も暗くなってしまったけれど。
そうやって二人は、楽しみながら掃除を終えたのだ。
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