第45話 好きだ①

 フィーアとは、その日最後の選択講義が一緒に受けることのできる講義だった。

 そこで、今後の予定を建てようと決めていた。


「そっか、バファルスキくんが……」

「ああ。でも、遅かれ早かれだからな」


 正直、もう俺にとってグオリエのことは重要ではなかった。

 もともとこうなることは理解っていたし、いずれは対応しなくてはならない問題だ。

 何より、俺は奴の言葉で自覚してしまった。

 俺はフィーアが好きだ。

 その事実の前では、奴は俺を害する敵ではない。

 ただの恋敵だ。


「それで、放課後の予定の方は」

「んふふ、今日! 空いてました!」

「なら……よかった」


 機会は、思ったよりもずっと早く俺のもとへと訪れそうだ。


 ――放課後、俺達は再び資料室に向かった。

 相変わらずそこは人気がなく、忘れ去られた資料達が埃を被っている。

 魔術の資料として、これほど価値のあるものはそうそうないだろうに。

 少しでもその価値が戻ってくるなら、この資料室を掃除する意味もあるというものだ。


 そして何より、俺にとってはフィーアの秘密を知った場所でもある。

 あの時出会った金髪のお姫様は、今こうして、俺の隣にいる。

 秘密の共有者として。

 何より、親密になった学友として。


 結果はどうあれ、俺はここでフィーアに告白する。

 すでに、そう決めたのだ。

 とはいえ。


「そうだ、思ったんだけど、掃除って風魔術で楽できないかな」

「風魔術でか? 状況によるな……」


 ――まずは、眼の前の問題を解決してからだ。

 フィーアは、やるべきことをやる人間の方が、そうではない人間よりも好ましいと感じるだろう。

 というか、こんな埃臭い場所で告白したくない。


「まず、魔術で風を操るというのは、大気のマナを風に変換するということだ」


 魔術とは、マナを何かしらの現象に変換する方法である。

 マナとはこの世界に満ちる、魔術を生み出すためのエネルギー。

 魔術は詠唱や魔法陣等を介して、マナに訴えかけることで発動する。


「だから、魔術は詠唱や魔法陣によってその効果が制御される。つまり、掃除に適した詠唱ならこの埃をどうにかできるかもしれないが……」

「しれないが?」

「……そもそも、風魔術は基本的に攻撃用の魔術だ。生活に使える魔術といっても、例えば濡れた衣服を乾かす魔術とか……」


 思わず、そこで考え込んでしまう。

 なんというか、こうなるともはや自分でも止まらないな。

 フィーアに告白すると決めていても、眼の前の魔術に関する話題へ集中してしまう。

 だから、俺はそんな自分を見つけるフィーアの視線に、気づいてはいなかったんだ。

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