第44話 自覚⑥
「お前はその生き様を輝かしいとは思わないのか? あれほど慈愛に満ちている女を、俺は知らん」
「……」
「慈悲深い女だ、お前のようなおこぼれにも構わず声を掛ける。どころか、お前をかばうような素振りは、見るに堪えん」
言い方は、ともかく。
正直意外だった、グオリエのフィーア評は、やつの視点から見たフィーアとしては間違っていないように思える。
フィーアは、その人付き合いの良さから、すぐにクラスでの人気を獲得した。
男女問わず、フィーアを慕うものは多かっただろう。
今となってはグオリエがクラスの空気を支配してしまったせいで、フィーアはクラスと距離を置いているが。
置いていてもなお、クラスの連中がフィーアに対して好意を向けるくらい、フィーアは人付き合いが上手い。
アレを、カリスマと呼ばなくて何だというのか。
「ならば、俺のようないずれ国を動かす上位貴族のモノとなることは、フィーアにとっても栄誉なことだ。それがなぜわからない」
……少なくとも、こいつのような力で周りに頭を垂れさせているような奴とは違う。
フィーアのことをそれなりに正しく見ていると思って、少し関心した俺が間違いだった。
こいつは、徹頭徹尾自分勝手な奴だ。
お前がフィーアを語るなよ。
お前みたいな奴が……。
だが……
「そうだよな、フィーアの生き方は……輝いているよな」
「……おい」
「眩しいと、憧れてしまうくらいに。目が灼かれてしまいそうなくらいに」
「おい、何をブツブツ言っている、発言を許可した覚えはないぞ」
フィーアは輝いている、太陽のようだ。
手を伸ばせば灼かれてしまいそうな、あまりにも遠く、輝ける陽の光のような。
グオリエのような傲慢な男ですら、それを輝かしいと呼称してしまうくらい。
憧れて、灼かれてしまうと思ってもなお、嫉妬ではなく略取を臨むように。
フィーアは距離が近いから、周りがそれを勘違いしてしまう。
俺は、そう思っていた。
だが、違うのだ。
隣りにいてほしいから、勘違いするのだ。
隣同士で座った時、視線があった時、言葉をかわした時。
俺は彼女を好ましいと思う。
それは、彼女が俺に親しげに接してくれるからだけではない。
それは――
「おい、いい加減にしろ平民! 俺の言葉が――!」
「そこで何をしている!」
その時だった。
校舎の萎縮した空気を割って、声が響く。
教師のものだ。
「チッ……」
グオリエは、それで矛を収めた。
彼がこの学園で支配下においているのは、あくまでクラスの中だけだ。
俺への嫉妬で、思わず行動を起こしてしまったが。
これ以上、問題を起こすわけには行かない。
その程度の考えは回るのだろう。
そして教師も、俺に対して何かしら暴行の形跡がないのなら、強くグオリエを責めない。
それに、この教師は俺に対して興味がない教師だ。
問題がうやむやになったのなら、それ以上追求はしないだろう。
グオリエが去り、平穏が戻る。
学生たちも、そそくさとその場を後にし、教師も俺を一瞥してから興味なさげに去っていく。
かくして、周囲に人はいなくなった。
そこで、俺は――そんなことに何ら興味もなく。
ただ、自覚していた。
自覚してしまったのだ。
グオリエとのやり取りで、フィーアに対する執着を見せる奴を見て。
俺は、ココロの中で少しだが反感を抱いた。
それは――嫉妬だ。
グオリエに対する、奴がフィーアを自分の物にすると言葉にしたことへの、嫉妬。
そうだ、俺は、
「……俺は、フィーアのことが好きなのか」
そう、自覚してしまったのだ。
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