第43話 自覚⑤

 結局、掃除は朝だけでは終わらず。

 フィーアはできるだけ早く続きがしたいとのことで、昼休憩中に予定を確認してくることになった。

 つまり、久々に今日の昼休憩は一人だ。


 だから、だろうか。

 そいつが俺に話しかけてきたのは。


「――おい、おこぼれ」


 おこぼれ、クラスにおける俺の蔑称。

 誰もが俺をそう呼ぶが。それはクラスの中だけのことだ。

 あいつらは虎の威を借る狐、クラスの外でわざわざ俺に話しかけてきたりはしない。

 だから、ここで俺に呼びかけるのは――


「……グオリエ」


 その元凶たる、グオリエ以外にいないだろう。

 なぜ、クラスの外で? 疑問は、正直あるていど答えが予想できていた。


「貴様、なぜ昼食をフィーアと取っている? 誰の許可を得てのことだ?」


 フィーアとのことが、こいつにバレたのだ。

 別に隠してはいなかったから、時間の問題だっただろう。

 今、その時が来たと言うだけのこと。


「……許しが必要なこととは思えないが」

「貴様のような平民が、学園で口を開く事自体が罪深い行為だということを、なぜ理解できない! その口を閉じろ愚民がぁ!!」


 ずんずんと寄ってきたグオリエは、俺の胸ぐらを掴み上げた。

 周囲の視線がこちらに集まり、若干ながら悲鳴も聞こえる。


「いいか、お前のようなおこぼれにフィーアが時間を割くことは損失なのだ。お前の愚かな頭では理解できないだろうから言ってやろう」

「それは」

「黙れと言っている!」


 面倒な話だ、ことここに至ってこいつは、まだ俺に手を出さない。

 これで俺を一方的に攻撃すれば、もう少し周囲の同情が俺に傾くというのに。

 周囲の俺に対する視線は、現状無関心が圧倒的に多い。

 俺が平民であったとしても、そもそも俺の存在事態にピンと来ていないんだろう。

 だから、どちらかと言えば彼らの感情は、グオリエへの恐怖に寄っている。

 そのうえで、逃げる選択肢を彼らは取ることができる、クラスの連中と違って。

 故に恐怖をグオリエへの同調へと変換しない。

 だから、グオリエが蛮行を働いてくれれば、それなりに楽になるのだが。


「フィーア・カラットは俺のような上位貴族のモノになるべきなのだ。お前のようなおこぼれに触れれば、フィーアの価値が落ちる」


 ……もとより、グオリエがフィーアに入れ込んでいることは知っていたが。

 そこまで執着するほどだったのか。

 俺に対する粘着も、嫉妬による部分が大きいのか?

 平民だからとか、不快だからとかではなく。

 そう考えると、少し疑問が湧いてきた。


「フィーアのどこが、そこまでお前を惹きつけるんだ」

「愚問が」


 そう言いながらも、今度は俺の言葉をグオリエは遮らなかった。


「輝けるフィーアの生き様を、お前は自分のものにしたいとは思わないのか?」


 そしてそう、言ってのけたのだ。

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