第42話 自覚④

「私は、いろんなことに挑戦したいの。学生だってそうだし、魔術だってそう。……お姫様だって、私の挑戦したいことの中には含まれてるよ?」


 掃除を進めながら、フィーアは語る。


「でも、それら一つ一つを満足にこなすには、時間がどれだけあっても足りない」

「……まぁ、そりゃそうだろうな」


 俺だって、魔術の学習だけを続けられるなら続けたい。

 だが、それをするには生きていくための柵が多すぎる。

 お金はどれだけあっても足りないし、今の魔術の学習水準を守るには、グオリエという害意を受け入れてでもこの学園に残らないと行けない。


「特に学生生活なんて、三年しかないんだよ? 三年、たったの三年。私、三年しかないなんて勿体ないと思う」

「そうか? 三年もあれば、いろんなことができる。魔術の研究も相当進むぞ」

「ハイムくんは凄いなぁ、私だったら魔術にそれだけ情熱を持って打ち込めないよ」

「……そうはとても見えないが」


 フィーアの魔術師としての技量は高い。

 相応の努力をしてきた証拠だ。

 そうでなくとも、彼女は毎日学園の雑事に取り組んで、教師と交流を持ったりしている。

 クラスの連中とは折り合いが悪いのか、流石のフィーアでも壁を感じるが。

 学内での活動は、かなり積極的に行っているはずだ。


「だって、時間がないんだもん。魔術のこともそう。王女としてのいろいろもそう。学園のことだって! ハイムくんは、秋にある学園祭をどう思う?」

「どうって……まぁ、楽しそうだとは思うよ。深く関わるかって言うと、そういう性分でもないけど、当日は屋台とかは見て回るだろうな」

「私は……もう、何もかもに関わりたい! 生徒会の人たちと交流を持って、学園祭の運営にも関わりたいし、クラスの出し物……は、まぁいいとして。例えばクラブの出店とかも手伝ったりしたいし! もちろん屋台だって見て回りたいよ!」


 散弾のように止まらぬ勢いでフィーアは言葉を紡ぐ。

 それらすべてを一度にやるのは、どう考えても無茶だ。

 普通の学生ならともかく、フィーアは王女なんだぞ? そんな時間、どうやって捻出するっていうんだ。


の!」

「え?」

「そのために、私はいろんなことに優先順位をつけなきゃいけないし、それを守らなきゃいけない」

「……その生き方は、大変じゃないのか?」


 あまりにも合理的で、そして忙しすぎる考え方だ。

 だが、それらを本当にこなせてしまえるのだとしたら。

 やり遂げてしまえるのだとしたら。

 俺のような能動的な人間からしてみれば、



「だから、人生って楽しいんだよ。私は、短い人生だから好きなんだ!」



 それを、心からの笑顔ではっきりと言葉にできるフィーアは。

 あまりにも、眩しく映ってしまうのだ――

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