第41話 自覚③

 俺は、あまり能動的な人間ではない。

 魔術を学び始めたのも、俺の暮らす場所に魔術を学ぶ環境があったからだ。

 学園に通い始めたのだって、周囲の薦めがあったから。

 それにしたって、ストラ教授が俺を推薦し特待生にしてくれなかったら、実際に通うかどうかは怪しいところだっただろう。

 週に一度のバイトも、魔術本を買うのに仕送りだけでは足りなかったのと、バイト先の経営者が俺の家族と知り合いだったから行っている。


 俺は日課として、朝に少し体を動かしている。

 故郷にいた頃からの習慣で、これもまた周囲がそうしていたからそれに倣ったものだ。

 俺自身は本の虫というか、出不精だったから。

 あまり身体を動かすことは好きではない。


 だが、一度何かを始めれば、それを続けるのは得意な方だ。

 特に魔術という分野は、学べば学ぶほど身につく分野である。

 周囲は俺を天才だと言うが、俺はあくまで魔術を幼い頃から欠かさず研鑽し続けてきただけだ。

 その集中力は確かに才能かもしれないが、理論上魔術は学べば学ぶだけ成果が出る。


 魔術は”発動する”という目に見えた成果があるからだ。

 どんな人間も、魔術を決まった方法で発動させれば、効果を得られる。

 だったら誰だって、学べば魔術の天才になれると俺は思っているのだ。

 それが他人からしてみれば、難しいことだとしても。

 この世界のあらゆる分野でもっとも才能ではなく努力が重要なのは、魔術という分野だと俺は断言できる。


 その点、フィーアは非常に優秀だ。

 俺なんかよりもずっと器用で、魔術の練度も高い。

 王女として多忙な時間を送りながら、あのクラスでは俺という例外を除けば一番魔術の使い方が巧いのだ。

 一体、どれほどの魔術の研鑽を効率よく行っているのだろう。


「えーっとこっちは片付いたから、次はこれを整理しないと」

「……フィーアは、どうしてそこまで物事を器用に片付けられるんだ?」


 ふいに、そんなことを聞いてしまった。


「器用って……そんな風に見える?」

「見えるさ、俺一人だったらこんな素早く掃除は終わらない」

「……ハイムくんの部屋って、キレイに掃除されてる?」

「さ、最低限は。なにせ俺の趣味は本だけだからな。部屋が汚れる余地がない」

「それを掃除してないっていうんだよーっ! っていうかそれ、本は結構乱雑に片付けられてるでしょ!」


 なぜ理解った???

 やはりフィーアは凄いな……


「そこはハイムくんがわかり易すぎるだけだよ……でも、そうだね器用……器用かぁ」


 掃除を続けながらも、考えるようにフィーアは視線を上げる。

 そういうところが、俺からしてみれば器用ってことなんだが。


「私は、人生って短すぎると思ってるんだ」


 ぽつりと、フィーアはそんなふうに零したのだ。

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