第39話 自覚①

 フィーアと二人で、学園の雑用を片付ける日が続く。

 この学園にやってきて、俺は初めて穏やかな日常を送っているのだと感じることができていた。

 グオリエ等クラスメイト達は、常に俺のことを侮蔑してくる。

 平民だから、ただその1点で。

 ”そうしてもいい空気だから”攻撃するのだ。

 せめてグオリエがいなければ、彼らの俺に対する反応はもう少しまともになっていただろうに。

 だが、それすら気にならないくらい、フィーアとの毎日は充実している。


 そんなある日のことだった。

 ストラ教授から、雑用を頼まれたのは。


「ほぉ……本当に二人できよったの」

「なんか含みのある言い方ですねー? 教授」

「いや何、学園の天使とも呼ばれておるフィーアと、特待生のハイムが二人で学園の雑用を片付けて回っていると聞いての」

「初めて聞きましたけどそれ!?」


 今私が考えたからの、と笑うストラ教授。

 この好々爺みたいな雰囲気を出しながら、まだ五十代なかばという中々びっくりな教授の頼みというのは、資料室の掃除らしい。


「長年あそこは、誰も掃除しようとせんでな、大分埃が溜まっておるのだ」

「一応、ある程度はキレイにしてるんですけど……」


 普段からあそこを休憩所にしているフィーアだ。

 当然、休憩しても問題ない程度にはキレイになっている……はずなのだが。


「足の踏み場があるところはの。だが、他はそうではない。荷物をどかせば、そこから埃が湧いて出てくるぞ」

「そ、そんなに……?」


 思わず問い返してしまった。

 そういえば、こないだあそこで派手にころんだ時も、埃がすごかったような。


「こないだは、どこかの誰かさんが本棚を崩してしまったからの、埃も当たりをまって大分凄いことになっておる」

「な、なんで知ってるんですか!?」

「というか、片付けたよな? 俺達」


 なんでそんなとこまで把握してるんだよ……


「ま、年の功というやつだの。ともあれ中は汚れが酷い。一日で片付けずゆっくりすすめるのだ」

「はぁ……」

「それと……」


 それと?

 教授は、なぜかそこで言葉を一拍止めた。



「男女が密室で二人きりだからといって、如何わしいことをしてはいかんぞ」



 かなりストレートにそう言った。


「しませんよ! するわけないじゃないですか! 学校ですよ!?」

「なんだ、したくないのか」

「そういう話じゃなくって! セクハラで訴えますからね、先生!」


 言いながら怒っているフィーアは、なかなか可愛げがあった。

 だが、ここでそれを指摘すると間違いなくやぶ蛇なので、黙っている俺でもあった。

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