第38話 間奏

 それからの日常は、比較的穏やかに過ぎていった。

 朝早く家を出てフィーアと合流し、学園の様々な雑用を片付けていく日々。

 ホームでは相変わらず、俺を蔑む視線やグオリエの粘着が鬱陶しいものの、必修講義の間はそこまで連中も俺に構うことはない。

 選択講義はそもそもあいつらとはできるだけかち合わないようにしているし、フィーアと二人で講義を受けれる。


 講義をフィーアと受けるのは、一日に一回あるかどうかというところだが、昼食は大体一緒に取るようになった。

 そうすると、流石にカップルかなにかとクラスの連中ではない人間からも思われるかもしれない。

 自然と、昼食は人気のないところで取るようになる。

 学食の料理は外に持ち出すこともできるので、学食で各々に料理を頼んだり、自分で用意したり、購買を利用したり。

 学生ってこういうものだよな、といった感じに、いろいろな料理を二人で食べた。


 学園の雑用は、思ったよりも様々なことをやった。

 授業で使う資料の仕分けだったり、クラブが使った道具の掃除や選択だったり。

 まさしくこれぞ雑用と言わんばかりの、それはもう何から何まで押し付けられるすごい状況だった。

 というか、やってみて理解ったが、この学校には思った以上にフィーアへ押し付けられる雑用が多い。

 本人が望んでやっているというか、自分からそういう雑用を探し回っているのだから当然といえば当然だが。

 これが本人の望みでなければ、娯楽小説の主人公かなにかかと思うほどに不憫である。


 雑用をしていると、教師との接点が増える。

 教師の俺に対する反応は二つに分かれた。

 完全に何一つ興味もない、俺を平民として見ている教師。

 もしくは、俺に対して色々と便宜を図ってくれる、俺を特待生として見ている教師だ。

 後者は実にありがたい話だが、別に前者だって悪いことではない。

 興味がないということは、グオリエのように俺を害そうという考えがないということなのだから。


 ――日々は忙しく過ぎていく。

 フィーアの秘密を知ってから、俺の一日は明らかに前よりも進みが早くなった。

 魔術師としての研鑽を積み重ねる日々もやりがいがあったが、そこにフィーアという彩りが加わったのだ。

 その生活は、間違いなく居心地のいいものだった。


 理解っている。

 いずれ、俺とフィーアの関係を、クラスの連中やグオリエが知ることになるだろう。

 それは避けようのないことで、俺達だって積極的に隠そうとは思っていない。

 露呈した時に、奴らをはねのけると決めているからだ。


 でも、それでも。

 今はもう少しだけ、このなんでもない平和な日々が、一日でも長く続けばいいと、俺達は思っていた――

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