第34話 二人で③

「よし、終わったな」

「はー、楽ちん楽ちん」


 作業は話をしながら、適当に運んでいるだけで終わる。

 楽な作業といえばそうだが、フィーアのそれはかかった時間の短縮に関する感慨だろう。


「それで、これをどうやって処分するの?」

「土魔術を使う」

「え、土魔術? 火魔術じゃなくて?」


 基本的に、ゴミを処理する時に使うのは火炎魔術だ。

 それに特化した魔術も存在するくらい、当たり前のこと。

 だから処分場には、火炎魔術を使うのに特化した杖が、数本立てかけてある。


「面白い記述を読んだんだ。それを試してみたくて」


 言いながら、俺は腰にさしてある杖を引き抜く。

 魔術は、基本的に杖を使う。

 杖の種類は様々で、手に持って使う小さいものから、俺の使う杖のように、身長くらいのサイズがある大きいものもある。

 フィーアは確か、杖の機能がある腕輪を杖にしていたはずだ。

 杖といっても、魔術を使う補助機能を持ったアイテムを総称して杖と呼ぶだけなんだよな。


「ハイムくんの杖って大きいよね」

「このサイズが、何かと便利なんだよ」


 俺の杖は大きい。

 ちょっとした剣と同じくらいのサイズがある。


「んじゃ――土塊よ、還れ」


 詠唱とともに魔術を使うと、残骸たちに変化が起きた。

 木でできている残骸たちは枯れ果てて、最終的に塵に変わった。


「わ、凄い。どうなってるの?」

「的は木で出来てるだろ? 木は自然の一部だから、土塊に還せば肥料にできるんじゃないかって論文を読んだんだ」

「おー……肥料に使えるかな?」


 わからない。

 俺は平民ではあるが、農作業とかはしたことないからな。

 塵に還った木片が肥料になるかどうかとか、考えたことがなかった。

 これを使ったのは、単純に理論に基づいて作った新しい魔術を使ってみたかったからだ。


「まぁ、流石に的の残骸を肥料にする必要はないだろうから、このまま片付ければいいだろ」

「そうだねぇ。いやぁ、燃やすと燃え尽きるのに結構時間かかるから、今回はあっという間だった」

「そういう意味で、この魔術は正解だったかもな」


 俺としては、とりあえず土塊に還すまでがうまく行けば満足だったわけだが。


「……ハイムくんって、何事にも魔術が優先なんだね」

「楽しいんだよ、魔術を使うのって」


 新しい魔術を学ぶのも、日常的に魔術を使うのも、楽しくてたまらない。

 何と言うか、普通じゃできないことをできるようにするという感覚が、俺は好きだ。


「…………」

「……どうしたんだ? フィーア」

「え? あ、ううん。なんでもないよ」


 ふと、一瞬ぼーっとした様子だったフィーアに声を掛ける。

 すぐにもとに戻ったが……何だったんだろうな? 今の空白は。


「……そういうとこだよ」


 ぽつりと零したフィーアの言葉。

 ぶっちゃけ聞き取りきれなかった。

 だが、聞かせるつもりのない言葉を聞こうとするのは野暮なので、俺はスルーすることにした。

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