第30話 勘違い③

 色々と俺にとって天国のような地獄のような、何とも言えない講義を終えて。

 今日の授業は無事にすべて終了した。

 そうなると、俺は暇になるので基本的に図書館へ籠もる事となる。

 魔術とは研鑽がそのままダイレクトに実力に変わる学問。

 手が空いているなら、可能な限り俺は魔術を学ぶことに人生を費やしたいのだ。


 そう考えると、フィーアとのあれこれは俺の人生にとってかなりイレギュラーな時間である。

 もともと学園に通うこと事態、学園の膨大な量の資料や、魔術師としての先達たる教師陣の存在を加味して、ギリギリプラスになるくらいという。

 魔術を学ぶ上で、魔術以外の時間は俺にとってイレギュラーな時間なのだが。


「いやぁ、なんだか新鮮だったね、ハイムくんと一緒に講義を受けるって」

「あ、ああ……そうだな」


 こうしてフィーアと話をしていると、そういう考えも吹っ飛んでしまう。


「ハイムくんは、この後どうするの?」

「図書館で、資料漁りだな。昨日途中まで読んだ資料を、今日中に読み切りたい」

「……それ、私の正体を知った後に、図書館に行ったの?」

「行ったが?」


 そりゃそうだろ。


「ハイムくんの心臓どうなってるの……? 私、あの後お父様に相談するまで、他のこと全然手がつかなかったのに」

「そうはいっても、俺にできることなんてなにもないしな……だったら、いつも通りの生活を送らないと」

「わぁ、魔術の虫だぁ」


 関心した様子のフィーアである。

 しかし、なんというか。

 そこに嫌味のようなものは一切ない。

 本気で俺の行動を凄いと思っているのが伝わってくる。

 ……珍しい反応をされたな、少し意外だった。


「そういうフィーアは、普段どうしてるんだ?」

「この後? 日によって違うかな。えーっと」


 周囲に視線を向ける。

 今俺達がいるのは、人気のない学園の一角。

 資料室ではないから、必ずしも安全というわけではないが、人気はない。


「お仕事があるから、それが七割、そうじゃない時は学園で色々とお手伝いさせてもらってるかな」


 お仕事――つまり公務や王女としての教育だ。

 流石に、お姫様は毎日忙しいのだろう。


「今日はお仕事だよ。時間に余裕はあるから、もうちょっとお話できるけど」

「んー、そうだな」


 俺も、図書館の閉館時間まではまだ余裕がある。

 だから、何かしら他愛のない話をしていてもいいのだが――


「そうだ、フィーア」

「何かな?」

「俺も、フィーアがやってる学園の手伝いに参加させてくれないか?」


 ――だったら、その手伝いを俺も手伝って。

 そこで話せばいいじゃないか。

 と、そう思った上での提案。

 今日は無理だそうだが、明日以降。

 こっちの都合はいつだってつけられるし、ちょうどいいと思った。


 の、だが。


「ゔぇっ!?」


 フィーアは凄い声を出して飛び上がってしまった。

 初めて聞いたぞ、フィーアのこんな声。

 本気で驚くと、正体がバレた時みたいになるのだろうが。

 日常的に驚くと、こんな驚き方をするのだな、と少し新鮮だった。


 なお、手伝いをする許可は取れたことを付記しておく。

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