第29話 勘違い②
色々考えているうちに、講義が始まってしまった。
フィーアの真意を問いただそうにも、授業中に私語は厳禁。
もちろん、そういうルールを破ることだって青春の1ページかもしれないが。
青春の1ページにするには、聞きたい内容がデカすぎるだろ!
変なことを考えたまま講義に突入したせいで、全くもって話しが頭に入ってこない。
一応、そもそも今回受けている講義は『魔術基礎A』という、一言で言えば基礎の基礎みたいな内容だ。
改めて復習のため、単位を取るためにこの講義を取っただけなので、内容はもともと頭には入っているものの。
今、この瞬間に入ってくる内容をうまく整理することができない。
聞こえてはいる、いるのだ。
理解もできるし、教師から指名されれば今説明されている内容に関する質問だって答えられるだろう。
だが、意識のほぼ全ては隣にいるフィーアへ向けられている。
フィーアはといえば、真剣にメモを取って、授業に集中しているようだ。
それでいて俺が視線を向ければ、向こうもちらりと視線を向ける。
今、俺がフィーアと授業で意識を9:1にしているとしたら。
フィーアはその逆に、俺と授業で意識を1:9にしているんだろう。
そういう雰囲気が感じ取れた。
ああもう、なんでこんなに動揺しなければならないんだ?
フィーアはいつもどおりにしている。
昨日自分の重大な秘密が俺にバレた後だと言うのに。
こうしていつもどおりの日常を送っているのだ。
だというのに、俺は何だ。
正体がバレた負担は圧倒的にフィーアの方が大きいはずだろ?
だったら俺こそ、自然体でいなきゃダメじゃないか。
しかし、フィーアはここに至るまで、様々な話を俺としてきた。
そのどれもが、普段以上に楽しそうで、もしくは普段以上にこちらを意識したもので。
なんというか。
勘違いしてしまう。
これまで、ずっと勘違いしないようにしてきたというのに。
フィーアが素直すぎる子犬のような少女だということは、すでに分かりきっているはずなのに。
理解っている方が勘違いを加速させてしまうのだ。
なんて、考えていたら。
「――ねぇねぇ、ハイムくん」
!?
こそこそと、フィーアが声をかけてきた。
周りには聞こえない程度の声。
これはアレだ、青春の1ページをやりたいんだろう。
敢えてルールを破りたい年頃の少年少女にありがちな、アレだ。
それでいいのか王女様。
いや、そうじゃない。
なんとか、冷静に問い返そうとした。
授業に関する質問なら、答えないわけには行かない。
仮にも、俺は特待生なのだから。
だが――
「な、なんだ?」
「楽しいね、こうやって授業受けるの」
――それは、こう。
ダメだろ。
無理だろ。
いたずらっぽい笑みを浮かべるフィーアに、俺はいろいろな感情がぐちゃぐちゃになったせいで、ただ無言で頷くことしかできなかった。
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