第28話 勘違い①
フィーアは基本的に他人との距離感が近い。
今は流石に席をくっつけるのは人目を引いてしまうから、ひとつ分席を離して俺達は座っている。
だというのに、なんというか、近い。
雰囲気が近いのだ。
「……? どうしたの? ハイムくん」
「いや、なんでもないよ。悪いな」
原因は、アレだ。
こちらが視線を向けると、必ず向こうと視線が合う。
常にこっちを見ているわけではないのに、いつだってこちらに意識を向けている。
だから、こちらの視線に向こうが自然と釣られるんだろう。
というよりも、フィーアは視線を基本そらさない。
他人と話す時は大体こっちを見ているし、覗き込んでいるようにすら思える。
壁が取り払われて理解ったが、これはなんというか……劇物だ。
「しかし、今のフィーアはとても楽しそうに見えるな」
「んー? 楽しいよ? でも、別にそんな普段と違うつもりはないんだけど」
「ああうん、そうだと思った」
俺からすれば、ぜんぜん違うのだが本人には自覚がないようだ。
そりゃあ、誰だって勘違いするよな。
いつだってフィーアは視線を他人から逸らさなくて、そして楽しそうだ。
壁が取り払われた今の俺には、それが彼女の本心であると解る。
だが、壁があるとその本心が読めないのだ。
フィーアはいつだって楽しそうだ。
だっていうのに、その本心が掴みかねるせいで、どうして楽しいかが読み切れない。
本人は「楽しいから楽しい」と感じているだけだというのに。
受け取る側によっては「自分といるから楽しい」んじゃないかと受け取ってしまうほどに。
なんて魔性の女なのだろう
クラスの男子は、全員フィーアが自分に気があるんじゃないかと思うに違いない。
俺だってそうだ、これまではフィーアが俺を勘違いさせていると思っていた。
でも、そう考えると。
俺は今までフィーアを、男を勘違いさせやすい体質だと思っていた。
実際それは間違っていないし、だからこそ俺はフィーアの勘違いを勘違いしないように自分を律していたわけだが。
――今のフィーアは、そもそも勘違いなんて起きようがないくらい俺といて楽しいんじゃないか?
ふと、そんな考えが湧いて出てしまう。
だって、そうでなけりゃ説明のつかないことが多すぎる。
資料室でのこと、昼食時の会話、そしてなによりこうして共に講義を受けるようになったこと。
遠慮という壁が取り払われて、彼女が素直に行動するようになった結果、この変化は起きた。
じゃあ、つまるところ。
フィーアは、俺が――
「……? えへへ」
「っ!」
また、視線があった。
笑みを浮かべて、フィーアはとても幸せそうだ。
この態度が、いつも通りなのか、俺だけに向けられたものなのか。
どっちだ――!?
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