第27話 変化③

 多分、俺とフィーアの一番の変化は、フィーアの態度だ。

 これまで、フィーアはあくまで隣の席に座る学友だった。

 言葉を交わすのは朝の挨拶と、月に一度の考古魔導学の時だけ。

 考古魔導学は基本的に昼休憩の前にあるから、何かと理由をつけて昼食に誘われることはあったものの、その程度だ。


 それが今では、授業間の移動は基本的に二人で移動するようになっている。

 といっても、流石に同じ授業を受ける場合だけだし、必修講義の際は分かれて移動することになるけど。


「ふふー、ハイムくんと一緒の講義だ。人のいる場所で一緒に座るのって、新鮮ー」

「まぁ……これまでは、隣同士に座るなんて考古魔導学でもないとなかったしな」


 俺とフィーアが選択している選択講義は、結構被っている物が多い。

 俺は貴族向けの経済学や礼儀作法の講義を受ける理由がないし、フィーアはそういったものは家の方で習うらしい。

 だから、自然と選択講義で受けるのは、魔術関係の座学に偏っていた。


「なのに、今まではハイムくんが私と一緒に座ってくれなかったから……」

「そこは接点がないんだから、しょうがないだろ」

「クラスが同じで、隣同士の席……じゃだめなの?」


 ダメということもないが……流石に男女間でそれを理由にするのは攻めすぎじゃないか?

 そう考えると、今回にしたって選択講義を男女で隣同士に座るのは何ともお熱い話なんだろうが……


 まぁ、学生同士の恋愛ってのも、珍しくはない。

 貴族が多く集まる場所とはいえ、恋愛はこの年代には欠かせないファクター。

 お見合い会場としての側面もあるだろうしな。

 ここで良縁を見つけられれば、という学生も多かろう。


 その点、”フィーア・カラット”は貴族の女子として注目を集める立場にはない。

 家の格はかなり低いし、知名度もないからな。

 グオリエのように、フィーア個人を自分のものにしたいと思わない限り、彼女に唾を付ける貴族はいないだろう。

 ……まぁ、その方が相手貴族にとっては幸運なのだろうが。


 だから、こうして男女二人で席に座っても、そこまで注目を集めることはない。

 この選択講義を受けてるのは、クラスで俺とフィーアの二人だけなので、クラスの連中に見つかる心配もない。


「講義が俄然楽しみになってきたよー」

「っていっても、講義中に話をするわけでもないだろうし、変わらないだろ基本的には」

「講義に臨む姿勢が全然違うしっ! モチベーションって大事だよ?」

「まぁ、そこは同意する」


 だからこそ、なおさら感じる。

 フィーアの態度の変化。

 俺に対する遠慮というか、壁のようなものが無くなった感覚。

 無くなったうえで思うのだが――フィーアは男を勘違いさせやすい。

 その原因は、この”壁”にことあるな、ということだ。

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