第25話 変化①
結局、俺たちは少しホームに遅刻したものの、特にお咎めはなかった。
フィーアは言うまでもなく普段からホームに遅れがちだし、俺もホームにはギリギリの時間で来るものだから、教師はたまたまだと判断しただろう。
クラスメイトの反応も普段と何も変わらない。
俺とフィーアが一緒に教室へ入ってきたならともかく、多少は時間もずらしたしな。
まあ、普段となんら変わらないということは、俺に突っかかってくる奴がいるということなのだが。
「いいご身分だな? 平民」
皮肉のつもりか、わざわざおこぼれではなく、平民呼びをしてくるグオリエ。
わざわざ俺に声をかけてくるあたり、こいつも暇なんじゃないかと思わなくもない。
とはいえ、基本的にグオリエの相手は沈黙が金だ。
言っても言わなくても逆上してくるなら、変に自分に落ち度を作らない方がいい。
「そこに座る権利を与えられていながら、その権利すら行使できないとは。これだから平民は愚かで困る」
相変わらず、お題目だけは立派な男だ。
軍閥のそれなりに重鎮であるバファルスキの次男坊。
見た目に削ぐわず力だけは誰にも負けず、魔術師としても平均より少し上の練度を誇る。
だが、性格は短絡的。
しかも他人の好意を何から何まで悪く受け取る悪癖持ち。
まぁ、ありていに言って性格は悪かった。
「平民貴様、俺の忠言を理解できないのか?」
……まずいな、虫の居所が悪そうだ。
別に、いつもならそのまま無視してもいいのだが、今日はそうも行かない。
具体的にいうと、隣の席のお姫様が爆発寸前だ。
「…………」
むすっとした表情で、俺でグオリエでもなく、自身が席についている机を見下ろしていた。
視線の高いグオリエからは目に入らないだろう。
普段だって、不満を我慢しているというのに、今日俺が遅刻した原因にはフィーア自身が関わっているとなれば、こうなるのも無理はあるまい。
だが、今のところグオリエが言っていることは尤もで、否定できるものではない。
俺が沈黙を保っているのに、同じように遅刻してきた自分が擁護することは不可能だ。
とすれば、俺はこの粘着をなんとかやり過ごさなくてはならない。
理由は色々とあるが、俺の環境は昨日までとは一変した。
フィーアの存在を、今の俺は無視できない立場にあるのだ。
心情的にも。
であれば、ここで取るべき行動は、
「……大変申し訳ない。俺の不徳の致すところだ。反省し、改善する」
謝罪だ。
ごくごく自然な、なんてことのない謝罪である。
「貴様……!」
グオリエが、いよいよ持って爆発しようとしている。
このまま、いつものように胸ぐらをつかれるのは時間の問題だ。
……が、
「ごめんなさい、私もホームに遅れちゃって」
「……な、違う。これはあくまで平民への教育の……!」
フィーアが同じように謝罪したことで、状況は変わった。
グオリエフィーアに謝罪させるつもりはないのだ。
それに、あくまで今回の粘着は俺の遅刻を責めるためのもの。
俺が謝罪をしたのに俺を攻撃するというのはグオリエから正当性奪うことになる。
「チッ……気をつけることだな」
俺一人ならともかく、フィーアを攻撃する意思がないなら。
グオリエはそこで引き下がる他なかった。
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