第22話 大丈夫③

「せっかく出し、聞いてみようと思ったんだが」

「うん、何でも聞いて?」


 ……何でも、か。

 いや、言葉通りの意味ではないと理解ってはいるのだが。


「フィーアは普段、クラスに来るまでの間何をしてるんだ?」

「えーっと?」

「いつも遅刻ギリギリで入ってくるだろ。……王女として、色々仕事をしてるからだと思ったんだが」

「んー、それもあるけど」


 どうやら、それだけではないらしい。

 むしろ、そういう王女としての公務はそこまでフィーアがこなすことはないそうだ。

 そりゃそうだ。

 こっそり学生として学園に通っているのもそうだが、ステラフィア・マギパステルは妾の子。

 彼女の前でそれを口にする輩はそうそういないだろうが、実際の扱いはそれなりに他の王女とは違うものになる。


「普段は、学園のお手伝いをしてるんだ」

「お手伝い?」

「うん、掃除とか……後は授業の準備とかかな?」

「そりゃ……なんだってそんなことを?」


 フィーアは善良な少女だ。

 そういう善行を、率先してこなすタイプかと言われれば、そりゃあ是だろう。

 誰にとっても優しい少女、それが今まで俺がフィーアに感じていた印象なのだから。

 でも、それだと少し不思議な部分がある。

 どうして、学園の雑務ばかり彼女が引き受けているのか。


「簡単だよ、それが一番安全に社会経験を積めるなるから」

「……ああ」


 納得した。

 たとえばコレが、学生の雑務ばかりを引き受けていたら、体よく使われてしまうだろう。

 だが、学園の雑務を手伝うというのは、相手が教師な分そうそう便利な使われ方はしないはず。


「教師はフィーアの正体を知ってるのか?」

「知ってる人もいる……かな。まぁ、よっぽど実家が大きいところの人じゃないとダメだけど」


 正体を隠すのに、王家の秘密とも言うべき魔術を使っているからな。

 よっぽど信頼できる相手じゃなければ、正体を明かすことはないわけだ。

 ……俺が不問にされているのは、やっぱり事情として重いなぁ。


「ストラ教授なんかは知ってるんじゃないか?」

「えー? 知らないと思うけど。そもそもストラなんて家、私も家名くらいしか聞いたことないし」

「でも、あの人のことだからなぁ……」


 というか、あの人に関してはなにか引っかかる物がある。

 ただ、どれだけ考えてもピンとこないから、今は放置するしかないが。

 なーんかこう、ような……ん? 何の話だ?


「まぁ、いいか。しかしそうなると、秘密を守るってのも大変だな」

「んー、そこまで重大に考えなくてもいいと思うよ? は、それだけ強力だもの」

「……普段は、いつも通りに過ごすしかない、か」


 気にしてもしょうがない。

 とてもそう割り切れるものではないが、結論としてはそう云う他にないのだった。

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