第21話 大丈夫②

「というわけで、座ってお話しよ? 椅子ならそっちにいっぱいあるから」

「……いや、ホームまでそんな時間ないし、別にいいんじゃ……」

「えー」


 ……座るか。

 むくれるフィーアに、逆らえる俺はいない。

 まぁ、そもそもフィーアにむくれられる経験事態が稀有なものだと思うが。


 資料室は倉庫でもあるようで、部屋の隅に使われていない椅子が積まれている。

 それを二つならべて、適当に話しでもしようということになったわけだが。


「……なぜ横に並べて?」

「向かい合った方がよかった?」

「いや、別に……」


 ただ、近くね?

 と思っただけだ。

 だって近いのだから。

 具体的には、ほぼ椅子同士がピッタリくっついている。

 椅子事態がそれなりに大きいから、身体まで寄せ合うようなこともないが。


「いいじゃん、いつもこうしてるわけだし」

「こんなには近くなかったかな……」


 クラスではそうだが、そもそもクラスで隣に入ることのほうが少ないだろ、俺達。

 あの面倒くさい空間で、呑気に座っている度胸など俺にはない。

 ホームが終わればさっさとクラスを後にするし、それはフィーアもそこまで変わらない。


「んふふ」

「ご機嫌だなぁ」

「ご機嫌なのです、んふー」


 ご機嫌度マックスなフィーア。

 パタパタと、脚を揺らしながら笑みを浮かべている。

 なんというか、正直ここまでご機嫌なフィーアを、俺は初めて見た。


 昨日、昼食を一緒にしていたから解るが、フィーアは明らかに俺に対して気を許している。

 そりゃあ自分の抱えている秘密を共有する相手なわけだし、正体がバレた時の様子からして、俺のことは少なくとも友人として大切なんだろうとは解るが。


 それにしたって、それにしたってである。

 正直、見ているこっちは色々とドギマギしてしまう。

 ただでさえ、フィーアの正体を知ってしまい、未だに距離感が掴みきれていないというのに。

 適うことなら、敬語でフィーアと話をしたいくらいだ。


 もともと、学園内では建前上生徒は全員平等とされてはいるものの。

 実際問題、実家の格ってのは学園のヒエラルキーに大きく関わってくるわけで。

 その点、平民の俺と”実は”王族のフィーアでは、生きる世界が違うというもの。

 敬語は使うべきではないという校風から、今も使っていないだけというのが実情だ。


 とはいえ、そもそもそういう身分の差を抜きにしても。

 フィーア相手に敬語を使ったら、それはもう怒髪天を衝くかのような反応をされるのは想像に難くない。


「なぁ、フィーア」

「んー? なーに?」


 とりあえず今は、コレまで通りの俺とフィーアとして、雑談に興じることとしよう。

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