2.好きだ

第20話 大丈夫①

「と、いうわけで、大丈夫だったよハイムくん!」

「マジか」


 マジかよ。

 いやびっくりした。

 まぁ、咎められることはないとは思っていたが。

 これだと、ほとんどお許しが出たようなものじゃないか。


「あ、でも。もちろん他の人に私の正体がバレるーっていうのはダメだから!」

「そりゃな」


 腕を交差させてバツマークにするフィーア。

 ダメー! と言いながらしばらくポーズを取っていた。


 ――一夜明け、俺達は例の資料室で話をしていた。

 秘密の話をするには、やはりここがうってつけである。


「……でえっと、他には?」

「……他?」

「いや、なんかこう。あるだろ、注意点とか」

「えーっと……特に言われなかったかな」


 ちょっと待てよ!?

 もう少しこう、気をつけるべきこととかあるだろ!?

 ……なんかこう、釈然としないな。

 フィーアが俺に伝えていないこと……はともかく、それ以外にも。

 陛下がフィーアに伝えていない何かが、ありそうだと感じた。


 とはいえ、その辺りをフィーアに突っ込むのは野暮だろう。

 ただでさえ、色々と俺に気を使って話していない部分も多いだろうに。

 フィーアはただ「大丈夫だった」とだけ言った。

 だが、その裏に色々と政治的な事情もあるだろうことは、想像に難くない。

 特待生は特別な立場なのだ、とはストラ教授も言っていた。


 しかし、そんな事情をフィーアに直接聞くわけには行かない。

 彼女は大丈夫なのだと言った。

 俺を安心させるために、諸々の事情を隠したうえで。

 その事情は汲まなくてはならないだろう。


「いやー、ほんとよかったよかった」

「……そうだな?」


 ……ほんとにこっちを気遣って、色々と伏せてくれてるんだよな!?

 まぁ、信じよう。


「んじゃあ、俺は行くよ。またクラスでな」

「はーいってちょいちょいちょーい! なんで!?」

「いや、なんでって」


 話は済んだじゃないか。

 人の来ない場所とはいえ、男女があまりこういうところで二人きりというのはどうなんだ。

 というか、人の来ない場所だからこそ、だ。


「ホームまでは時間あるよ!? 何もそんな急いでクラスに向かわなくてもいいじゃん!」

「……まぁ、そりゃあホーム直前まで、ぶらぶらと時間を潰すつもりではあったが。

「でしょ!? だったらここで、少しくらいお話しようよ!」


 謎に積極的なフィーアである。

 普段はここまで、こっちを引き留めようとはしなかったんだが。

 ……何か理由でもあるのか?

 少し考えて、ふと思い至る。


「……そうか、今日はフィーアに時間があるのか」

「――――!!」


 ぱぁ、とフィーアの顔が明るくなる。

 どうやら正解だったようだ。


 普段、フィーアは登校が遅い。

 遅刻するかしないかギリギリなほどに。

 があるんだろう。

 だが、今日はそうではない。

 俺への説明という、それより大事な用があったから。


 なるほど、それは。


「……解ったよ、ホームには間に合うようにするからな?」

「うん!!」


 流石に、フィーアの望みを聞かないわけには行かないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る