第18話 秘密⑤(他者視点)

 ステラフィア・マギパステルはその美貌から国民の人気は高い。 

 だが、あくまでその出身は妾の子だ。

 しかも、母は平民の出身である。

 だから父も家族も、ステラフィアのことを愛してはくれているが、それでも実感はあった。


 自分はいずれ、この国の王女ではなくなる、と。

 結局のところ、王族として生まれた女性の行き着くところは他国への嫁入りか、臣下への降嫁。

 どちらにせよ、婚姻の道具として扱われるのが普通だ。

 后妃の子ではないのならなおさら。


 これが后妃の子なら、万が一にも王位を継ぐ可能性はなくはない。

 上の第一王女に第二王女、そして下の第四、第五王女は万が一であっても王位継承の可能性はあった。

 それがのがステラフィアだ。

 どれだけステラフィアが優秀でも、それだけは絶対の事実だった。


「故に、お主が特待生と恋仲になるのなら、それは歓迎すべきことだ。彼を王族に取り込むまでは難しくとも、彼が為した功績に報い、爵位とお主を褒美に与えることはできる」

「……」

「だが、お主に対して私から言うべきことは、そのような実利に関するものではない」


 

 それは、フィオルディアが言うまでもなく、ステラフィアも解っていたことだ。

 だからこそ、彼の厳格な物言いを正面から受け止めたうえで、ステラフィアは次の言葉を待つ。


「……だから、よいかステラフィア」


 それは、とても優しい声音だった。

 ステラフィアの知る、父の声音。

 だからこそ、ステラフィアはそれを聞いた。


「その幸運をお主がつかめたのは、お主が彼と真摯に付き合ったからだ。お主の正体が露呈するまで、彼との関係を積み上げてきたからだ」


 幸運。

 フィオルディアはそういった。

 王族として、皇女として。

 恋慕の感情が成就するという幸運を、ステラフィアが掴んだからだ。


「そのうえで、お主と彼の前に立ちはだかる困難は、未だお主たちの前には現れておらなんだ」

「……はい」


 父がステラフィアの恋慕を許した重い意味。

 それは、王として特別な人材を国に取り込めという意味、ではない。

 王族でありながら、幸運にも愛する男性と結ばれる可能性を得たという意味、ではない。

 もしもステラフィアが、彼のことを好きでいたいなら、困難が待っているという意味だ。


「それから、彼を守る覚悟はあるか?」


 だから、父は娘にそう問いかけた。

 たとえそれが、あまりにも分かりきった結論だったとしても。


「あります」


 ステラフィアは、迷うことなく断言した。

 それに、フィオルディアはほんの少しだけ安堵の表情を見せる。

 かくして、ステラフィア・マギパステル――フィーア・カラットと、特待生ハイム。

 二人の”特別”な恋物語は、ここから始まるのだ。



「……まぁ、彼が私の恋慕に答えてくれたら、ですけど」

「そこで日和るでない、バカモノ!」


 ……始まるのだ。

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