第17話 秘密④(他者視点)
しばらくして、ようやくステラフィアは多少冷静になった。
その間、父親に微笑ましい視線を向けられたことには、大層傷ついたものの。
原因は自分にある、とてもではないが文句を言える立場ではない。
「ともあれ、私は別にステラフィアの正体がバレたことに関しては問題視しておらん」
「そ、そうなんですか?」
「これが、
つまるところ、特待生とはそれだけ特別な存在なのだ。
それに……
「まぁそもそも、彼でなければ記憶処理魔術を防ぐこともできなかっただろうからの、その場合はそれで終いだ」
「な、なるほど……」
少なくとも、今の学園で魔術のレジストができる学生は彼しかいないだろう。
「何よりも大きいのは、お主が彼を恋慕しておることだ」
「れ、恋慕は別にいいじゃないですかっ!」
「関係があるのだ。お主が彼を恋慕しておるように、彼もお主を憎からず思っておるだろう」
「なっ――――」
思わず、絶句。
いくら何でもそこまで言われるとは思わなかったのだ。
悪い気は……しないものの。
「断言しよう、その年頃の男子がお主の素の距離感で接されて、悪いようには絶対に思わん」
「そ、そうですかね……」
ああ、とフィオルディアは力強く頷いた。
何やら実感の籠もった肯定である。
対するステラフィアは、長い金髪を弄ぶように梳き始めた。
気恥ずかしくなっている少女が、思わずやってしまうアレだ。
「そ、そりゃあー? 私も女の子ですし? 彼と交流を持つ中で、それなりに彼が私を思ってくれてるな、と感じる時はありますけども?」
「……その、身内しかいない場になると、途端に調子に乗り出すところが、彼を幻滅させなければよいがの」
「な、何を言っとるですかお父様ーっ!」
敬語が変になった。
動揺が抜けきったわけではないようだ。
「ともかく、彼を好く思っておるのなら、決して手放さんことだ」
「ど、どうしてお父様はそんなに私の恋に積極的なんですか……?」
「特待生とは、それほど特別な存在だからの」
――その言葉に、ステラフィアはほんの少し。
王としての父の厳格さを垣間見た。
だからきっと、その言葉には単なる親切心以外のものが含まれているのだろう。
「よいか、ステラフィア」
「は、はい」
「特待生は、この世界の魔術の歴史を変えてしまうほどの素質を持った人間のみが許される立場なのだ」
「……っ!」
それは、思っても見ないほどに大きなことだ。
特待生、確かにハイムの才能は特別だとステラフィアも思うが、国が彼をそこまで評価していたとは。
それは、すなわち。
「……ステラフィア、お主は民の人気こそ高いものの、妾の子だ。王族としての格は、下の妹二人に実質は劣るだろう」
「そう……ですね」
「残酷な言い方をするが、お主が彼を恋慕によって国に取り込むのなら、それはお主の立場よりも価値があることなのだ」
あくまで、父は王として厳格であった。
ステラフィアの正体がバレたことを許したのではない。
ハイムだから許したのだ。
その事実は、相応に父と娘に取って重い意味を持つ。
ステラフィアは今、自分の”恋愛”がとても大きな事件をなのだと、自覚した。
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