第16話 秘密③(他者視点)

「え、あ、え、え、あ……え?」

「ふむ、どうしたのだ? そのような顔をして、まるで意を決して話したことをあまりにもすんなり受け入れられて、理解が追いついてないように見えるの」

「か、完全にその通りではないですか、お父様っ!」


 思わず叫んでいた。

 いや、叫ぶ状況ではないのだが、叫ばずにはいられなかった。

 何だったのだ!? これまでの自分の緊張はなんだったのだ!?


「何、別に隠すことではあるまい。学園でステラフィアが彼と仲睦まじく食事をしているという報告はこれまでも何度か受けておる」

「そ、それは学友として……フィ、フィーア・カラットとしてですっ!」

「だがな――」


 ステラフィアの言い訳に、フィオルディアは吐息を一つ零して返す。


「バレたのが、他の生徒でなかったことを、ステラフィアは嬉しく思ってるのであう?」

「え?」


 それは、どこか呆れのようなものを含んでいた。



「恋慕する相手にバレたのだ。むしろ、嬉しそうに見えるの」



 なにせ、ステラフィアの顔はハイムのことを報告したときから――下手すれば、執務室に入ってきたときから緊張で真っ赤になっていたのだから。

 今に至っては、もはや茹でダコとしか言いようがないほどに、真っ赤に染まっているのだから。


「そ、そそそそそ、そんなことないですよーーーーっ! お父様ーーーーっ!」

「これ、もう夜も遅い、そう騒ぐではない」

「で、でも、でもぉ!」


 ぶんぶんぶん。

 流石に”恋慕”を指摘されては、ステラフィアもフィーアに戻らざるを得ない。

 ただでさえ、父の指摘に狼狽していたのだからなおさらだ。


「ではのう、娘からの報告の半分が、隣の席の学友に関するものだった時、私はどのようにそれを受け取ればよいのだ?」

「え、う……」


 ステラフィアは、フィーアとして学園に通っている間、おきた出来事を報告する義務があった。

 なにか、おかしなことをがステラフィアの周りで起きていないかを探るために。


「た、ただの学友に関する私見といいますか……」

「報告内容に毎回、彼の容姿に関する内容が含まれていなければ、そうだの」


 そして起きていた、色恋沙汰というおかしなことが。

 それだけのことだ。


「私も彼の顔は見たことがあるが、顔立ち事態は非常に凡庸なものだったぞ?」

「ちっがいますー! お父様は目が節穴なんです! ハイムくんはすーっごくかっこいいんですっ!」

「自白したのう」

「あっ……うぅうううう」


 かくして、ステラフィアは崩れ落ちた。

 もう、溶けて消えてしまいたい……


「ま、久々にステラフィアの愛らしいところが見えた、彼には感謝しなければのう」


 なお、そんな父のつぶやきは、完全に耳に入っていなかった。

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